手術前に1歳の長男の預け先探しに疲れ果て
10月下旬だというのに、連絡先を書き出したB5大の紙の上に、吉田さんの顔から脂汗がぽたぽたと滴り落ちた。丸テーブルが4つ置かれた病院の談話室。吉田さんは洗面台に腰を押しつけ、陣痛に近いような下腹の激痛をこらえながら、スマホを握りしめていた。2018年のことだ。
痛みの原因は、卵巣腫瘍の茎捻転(けいねんてん。卵巣が腫れて肥大したために、子宮との連結部がねじれて血流が停滞する疾患)。1歳の長男による、吉田さんの下腹への頭突きが原因だが、それまで痛みは少しもなかった。
茎捻転の痛みで受診したら、卵巣に悪性腫瘍の疑いがあるとわかり、手術が決まったその日から入院していた。卵巣腫瘍は症状が進行しないと自覚症状がないから、がんの早期発見という点では不幸中の幸いと言える。
吉田さんは9月に、キャリアカウンセラーとして独立開業した矢先だった。
入院後の彼女の最優先課題は、手術後から退院まで2週間の長男の預け先探し。夫はシフト勤務のバス運転手で、そう簡単には休みはとれない。
病院の冒頭の談話室から市役所に電話をすると、事務的な口調で言われた。
「まずは、自分で(関連部署を)探して、電話してみてください」
吉田さんはファミリーサポート制度や、里親制度の子ども一時預かりサービスなどを調べて、電話をかけ続けた。だが、何度もたらい回しされた挙句に成果はゼロ。彼女が暮らす神奈川県の市レベルでも、民間でさえ約2週間の、突発的な幼児預かりサービスは見当たらなかった。
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