産後36歳でがんになった彼女が見つけた「役割」

当事者が情報発信していくことの意義

がんとともに生きる、吉田ゆりさんのこれまでとは?(写真:筆者撮影)
国立がん研究センターの統計によると、2016年にがんと診断された約100万人中、20歳から64歳の就労世代は約26万人。全体の約3割だ。
だが、治療しながら働く人の声を聞く機会は少ない。仕事や生活上でどんな悩みがあるのか。子どもがいるがん経験者のコミュニティーサイト「キャンサーペアレンツ」の協力を得て取材した。
今回は、2年前に卵巣がんになった、吉田ゆりさん(38)の事例を取り上げる。

手術前に1歳の長男の預け先探しに疲れ果て

10月下旬だというのに、連絡先を書き出したB5大の紙の上に、吉田さんの顔から脂汗がぽたぽたと滴り落ちた。丸テーブルが4つ置かれた病院の談話室。吉田さんは洗面台に腰を押しつけ、陣痛に近いような下腹の激痛をこらえながら、スマホを握りしめていた。2018年のことだ。

痛みの原因は、卵巣腫瘍の茎捻転(けいねんてん。卵巣が腫れて肥大したために、子宮との連結部がねじれて血流が停滞する疾患)。1歳の長男による、吉田さんの下腹への頭突きが原因だが、それまで痛みは少しもなかった。

茎捻転の痛みで受診したら、卵巣に悪性腫瘍の疑いがあるとわかり、手術が決まったその日から入院していた。卵巣腫瘍は症状が進行しないと自覚症状がないから、がんの早期発見という点では不幸中の幸いと言える。 

吉田さんは9月に、キャリアカウンセラーとして独立開業した矢先だった。

入院後の彼女の最優先課題は、手術後から退院まで2週間の長男の預け先探し。夫はシフト勤務のバス運転手で、そう簡単には休みはとれない。

病院の冒頭の談話室から市役所に電話をすると、事務的な口調で言われた。

「まずは、自分で(関連部署を)探して、電話してみてください」

吉田さんはファミリーサポート制度や、里親制度の子ども一時預かりサービスなどを調べて、電話をかけ続けた。だが、何度もたらい回しされた挙句に成果はゼロ。彼女が暮らす神奈川県の市レベルでも、民間でさえ約2週間の、突発的な幼児預かりサービスは見当たらなかった。

次ページ翌日、彼女は市役所に再び電話したが
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