産後36歳でがんになった彼女が見つけた「役割」 当事者が情報発信していくことの意義

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そう言えば、前出の野北さんが、「外見は小柄でかわいらしいんですけど、吉田の辞書には『仕方ない』という文字がないんですよ」と、苦笑しながら話していたことを思い出した。

「自分の役割」を果たしたい

取材の終わりに、がんの経験を境に、不要なものを手放す力が強くなりました、と吉田さんは小さく笑いながら言った。もともと、物欲や出世欲はない。

がんの再発防止のために両方の卵巣を摘出したことで、彼女は更年期障害に似た体のダルさや、憂鬱に時々苦しめられる。そのときはサボることへの罪悪感を上手に手放そうと、今も練習中だ。

「そこで横になって、スマホでできる事務作業でもやろうと無理をすると、もっとひどい状態に落ち込むんです。自分の体が発する声にあらがえない側の人間になったんだなぁって、つくづく思い知らされますもん」

もう1つ実践したのは人間関係の断捨離。

「1年間に1度は会いたい人か。会うと、私も相手も楽しいかどうかと考えて、自分から出す年賀状を一気に減らしました。自分ができることを続けて、それを認めてくれる人が増えれば、新しい人間関係は自然とできてくるって」

すがすがしい表情で、自身にも言い聞かせるように吉田さんは断言した。自分の死をきちんと見据えると人生はシンプルになる、と気づいた。

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取材後の撮影中、2歳の長男がようやくトイレで用を足せるようになったという。自分が力むとポトンと音がするのが、長男も楽しいらしい。トイレタイムになると、吉田さんにも近くでスタンバイするように要求してくる。

「すべての『ポトン』にうれしそうに反応するだけでなく、私にまでいちいち反応しろってせがむんですよぉ。それに毎回付き合わされて、ようやく終わったと思ったら、今度は4歳の長女が『私のほうがいい音が出せるっ!』と言い出して、2人別々にトイレの前へ連れて行かれるんですよねぇ」

その文字面とは裏腹に、吉田ゆりさんはほくほくした顔で言った。
                             

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