産後36歳でがんになった彼女が見つけた「役割」 当事者が情報発信していくことの意義

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改めて、彼女が手術前に長男の預け先を見つけられなかったことを考える。彼女の母親の頃と比べて、女性の社会進出は飛躍的に進んだ。しかし、共働き女性の労働環境は、約30年前とどれほど変わったのか。

経験者が情報を発信して世の中を変えていく

「そうかぁ、よく頑張ってきたねぇ」

初参加の女性が、がん発症後の試行錯誤を話し終えると、吉田さんは穏やかな声でそうねぎらった。6月下旬にZoom上で行われた、がん経験者が集うオンラインサロンでのこと。「がんと働く応援団」主催の企画だ。

参加者は女性7人、男性3人。年齢やがんの種類はさまざまだ。がんは男女ともに60歳代から増加し、高齢になるほど死亡率は高い。病院での外来診療や、がんの部位ごとに集まる患者会に参加しても、20代から40代の人は少数派。同年代の患者に会える機会は少なく、孤独感に苦しむことが多い。

HP上で個別相談も受けている(写真提供:吉田さん)

当日も幼い頃に白血病を発症。その合併症として今もネフローゼ(排尿時に尿中に大量のタンパクが漏れ出て、血液中のタンパクが減少して体がむくむ)を患う女性が、同じ合併症を患った男性参加者の話を聞き、「自分と同じ病気になった方と話すのは初めてで、うれしい気持ちになりました」と語った。その「うれしい」は、今までの心細かった気持ちの裏返しだ。

オンライン上であっても、経験者同士がつながることで孤独感を和らげたり、有益な情報を共有したりすることが、明日を生きる力につながる。 

Zoomに参加した別の男性が、抗がん剤の副作用で頭髪が抜けるようになると、当時の上司から、「しんどくても、しんどくないようにしとけよ」と言われたと語った。

ところが、吉田さんは彼には一転して、「がんについて知らない人が、何を言っても仕方がないと私は思います」と切り出し、こう続けた。

「むしろ、そんな心ないことを平気で言える人が時代遅れになるように、私たちが情報発信を根気強く続けて、世の中を変えていくしかないんですよ」

彼女は、発言した男性とは顔見知りで、彼の発言を否定する意図は少しもなかった。あえてデリカシーを欠いた言葉を肯定することで、当日が初参加の人にも、「血も涙もない発言に傷つけられる経験者」から「言うべきことは言う経験者」への発想転換を、暗に促していた。

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