臨月にコロナ感染した彼女の壮絶な出産体験記

まさかの事態に病院は特別態勢を組み対応した

感染病棟では帝王切開はできないので、そのときには、手術室はもとより、手術室と感染病棟を往復する動線をすべて立ち入り禁止区域としなければならない。

すべてが終わり、厳重な消毒が完了するまでそこには防護服を着けた者以外誰も入ってはいけないのだ。そのためには、病院のさまざまな部門が力を合わせなければならなかった。手術日は外来患者が来ない休診日が選ばれ、たくさんのスタッフが休日出勤をした。

「私たちは、可能な限り妊婦さんを受け入れていく覚悟です」と北脇教授は言う。

「しかし今後、例えばこの秋冬に大きな流行がやってきた場合は、この府立医大も満床になってしまうかもしれません。そうなると、いつ産気づくかわからない妊婦患者が行き場を失う心配もないわけではない」

京都府立医大では、Mさんの後にも再び感染した母親の帝王切開があった。北脇教授はそうした経験から得られたことを他施設にも積極的に提供し、もっと多くの病院が感染妊婦を受け入れられるようにしていきたい考えだ。

妊婦のコロナ感染例は0.02%

冒頭で紹介した全国実態調査の推計によると、日本の妊婦がコロナに感染した割合は妊婦全体の「約5000人に1人(0.02%)」であり、確率としては決して高くはない。調査をまとめた日本産婦人科医会医療安全部会の関沢明彦医師(昭和大学産婦人科学教授)は、この結果を「妊婦さんたちの慎重さの賜物」だと考えている。

医療関係者も、手探り状態を強いられながらも敢闘した。亡くなられた方が1人いたが流行地から入国した旅行者で、国内で妊婦健診を受けていた妊婦の中に死亡例、重症化例はなく新生児への感染例もなかった。

とはいえ、調査は、感染した妊婦の中には大きな影響を受けた母親もいたことを示唆している。Mさんのように感染している間に分娩となった人は12人いて、感染がどう影響したかは不明だが、早産の時期の出産になってしまったケースも2例あった。

分娩方法はすべて帝王切開だった。1例を除き、産科的な問題はない妊婦だった。出産後は全員が母児分離(子どもに会えない状態)となり、母乳をあげられたのはたった1人だった。

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