「普通に生まれていたら、たくさん抱きしめて、母乳をあげて、話しかけてあげたのに……。
私の子は、マスクで顔が隠れた人にしか会うことができない。抱っこもしてもらえない」
Mさんがそんな思いに沈む中、せめてもの慰めにと、新生児科の看護師たちが、赤ちゃんがミルクを飲んでいるかわいい様子を捉えた動画をMさんに送ってきてくれた。それは病棟に備えられたiPadで見ることができた。
動画の中のわが子は、ゴクゴクと元気そうにミルクを飲んでいて、日々成長していく様子が見てとれた。それを見るのが、Mさんにとって何よりもうれしい時間だった。
Mさんがわが子と初めて対面し、抱きしめることができたのは退院後のことだった。さっそく母乳をあげると、赤ちゃんは上手に飲んだ。
母乳は通常、飲ませなければ出なくなってしまうのだが、Mさんは入院中に搾乳機を借りて搾乳を続けたので分泌を維持することができた。赤ちゃんのほうも、哺乳瓶しか使わないと母親の乳首から飲めなくなることがあるが、幸いにも、Mさんの赤ちゃんにはそれは起きなかった。
Mさんに、感染が不安な妊婦さんへのメッセージを聞いてみると、こう話してくれた。
「もし感染して独りぼっちの産後になってしまっても、必ず赤ちゃんに会える日は来ます。だから、頑張って、と伝えたいです。
それから、私のような出産をする妊婦が出ないように、妊娠している人と、そのご家族はくれぐれも慎重に行動してほしいと思います。こんなに騒がれていても、どこかで『私は大丈夫』と思っている人は多いのではないでしょうか」
妊婦の感染は病院にも負担が大きい
妊婦の感染は、病院にとっても、負担が大きい。
Mさんを今回受け入れた京都府立医科大学産婦人科学教室の北脇城教授によると、同病院は府の第一種感染症指定医療機関であり、流行初期から最前線でコロナと闘ってきたが、院内で感染中の分娩があったのはMさんが第1号だった。準備はしていたものの、いざ実際に感染妊婦の分娩を扱ってみると、予想をはるかに上回る大変さだったと北脇教授は言う。
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