最高裁判事の死でトランプが息を吹き返すワケ 最高裁判決がアメリカ社会のあり方を決める

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1993年、ギンズバーグ判事は上院で96対3の票で超党派の支持を受けて承認された。しかし、トランプ政権下で承認されたニール・ゴーサッチ最高裁判事は54対45、混乱が記憶に新しいブレット・カバノー最高裁判事は50対48とほぼ党派で票は分かれ、二極化の進行は明らかだ。

アメリカはキリスト教徒や白人の割合が減少し、より多様な宗教やより多くのマイノリティで構成される社会に変わりつつある。リベラルな思想を抱く若者が多く、今後、社会が左にシフトすることは避けられない。

この人口動態の変化の波に対抗しようとしているのが共和党保守派だ。保守派の一部は2016年大統領選に続き、今回の大統領選のことも「93便」と呼んでいる。9.11アメリカ同時多発テロ事件で、ワシントンの連邦議会議事堂に突っ込もうと企てたアルカイダのハイジャック犯を乗客が阻止した。それが「93便」なのである。ヒラリー・クリントン候補をハイジャック犯、勇敢な乗客をトランプ候補になぞらえたマイケル・アントン氏(トランプ政権の元大統領次席補佐官)の論説「93便選挙」に由来する。

共和党保守派は今後、保守派の最高裁判事を指名承認しリベラルな社会に変わるアメリカを阻止するために、トランプ大統領に投票すべきだといった主張を展開するに違いない。問題は、人工妊娠中絶、医療保険制度、移民制度、銃規制に加え、産業界に影響が及ぶ環境規制など多岐にわたる。

皮肉にもトランプ勝利の女神になるのか

トランプ大統領の弾劾裁判で、ただ1人、共和党議員でありながら造反し、有罪に賛成票を投じたミット・ロムニー議員が、9月22日、上院で最高裁判事の指名承認手続きを進めることに支持を表明して、反響を呼んだ。離れ始めていた一部の共和党支持者も、このようにトランプ大統領支持に舞い戻ってくる可能性がある。とくに一部の激戦州で2016年のトランプ氏当選を支えたキリスト教福音派などの支持動向に注目だ。

またトランプ大統領が女性の最高裁判事候補を指名すれば、2016年にはトランプ大統領を支持したものの2018年中間選挙では民主党支持に流れた郊外に住む高学歴の白人女性などの支持が、戻ってくる可能性も高まる。

一方、民主党支持者を中心に、最高裁判事任命問題は民主党のほうが恩恵を享受するとの見方もある。ギンズバーグ判事死後、バイデン候補は最高裁判事任命について語ることを避けているようだが、とくに医療保険制度改革法(通称:オバマケア)の存続と保守派の最高裁判事指名承認を関連づけることに成功すれば、バイデン候補および民主党はより広範囲の国民から支持を集めることが可能かもしれない。

ギンズバーグ判事の死は、今のところ、選挙戦の根本的な構図を激変させる可能性を持ち、トランプ大統領に挽回のチャンスを与えている。トランプ大統領をペテン師とも呼び、毛嫌いしていたギンズバーグ判事だが、その死が再選を後押しする勝利の女神ともなりかねない。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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