最高裁判事の死でトランプが息を吹き返すワケ 最高裁判決がアメリカ社会のあり方を決める
11月大統領選直前、有権者の投票行動に大きなインパクトを与えうる事象を「オクトーバー(10月)サプライズ」と呼ぶが、早くも9月にこれが訪れた。民主党にとっては悪夢の「ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事(通称:RBG)の死」である。
ビル・クリントン大統領が指名して以来、過去約27年間、最高裁のリベラル派の筆頭格であった同氏は幾度も重病を患ってきた。ギンズバーグ判事の健康問題については懸念が広まっていた。民主党支持者は、民主党から大統領が就任してリベラル派の後任判事を指名し承認されるまでは、継続して任務を全うしてほしいと、切実に願っていたのである。
判事の死を契機に挽回狙うトランプ大統領と共和党
故人の死を悼む間もなく、民主党と共和党の間でギンズバーグ判事の後任人事をめぐり、激しい戦いが始まった。2016年大統領選で、トランプ候補の支持者集会で熱気を高めた掛け声は、「彼女(ヒラリー・クリントン)を収監せよ!(Lock her up!)」であった。ギンズバーグ判事の死の翌19日のトランプ大統領の支持者集会では、「(最高裁判事の)空席を埋めよ(Fill that seat!)」に置き換わった。
最高裁がギンズバーグ判事の訃報を発表してから1時間後、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は、トランプ大統領が後任として指名する候補について上院で承認採決に臨むことを発表した。一方、民主党のチャック・シューマー上院院内総務やジョー・バイデン候補は、大統領選で国民に判断を委ね、次期大統領が指名すべきだと反発している。
トランプ大統領は9月26日(土)午後5時(アメリカ東部時間)、後任判事候補を発表するとしている。大統領選まで残り40日弱と迫る中、上院は選挙前に後任判事を承認できるのであろうか。議会調査局によると大統領が最高裁判事を指名してから上院で承認されるまでの日数は約71日。しかし、1975年にジェラルド・フォード大統領がジョン・ポール・スティーブンス最高裁判事を指名した際には、わずか19日で承認されている。
トランプ大統領にとっては、上院での指名承認は大統領選後のほうが、投票率が上がるとの見方がある。大統領、議会に加え最高裁判事も選ぶことになるからだ。他方で、大統領選後よりも大統領選前のほうが保守派判事を上院で承認しやすいため、マコネル院内総務は早期に採決を図ると予想されている。また大統領選の選挙結果をめぐって司法で争われることを想定し、選挙前の指名承認を望む声がトランプ政権内にもある。
マコネル院内総務は、選挙戦への影響など風向きを見て判断するであろう。現状、党内ではスーザン・コリンズ議員(メイン州選出)とリサ・マカウスキ議員(アラスカ州選出)の2人が選挙前の承認に反対を表明している。だが、上院で判事承認に必要なのは50票。上院で共和党は53議席を有しており、2人の反対でも51票。さらなる造反が出る可能性は低い。
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