中国に帰る「神戸のパンダ」25年の劇的な半生 飼育員は赤ちゃんを失ったタンタンを支えた

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タンタンが中国へ旅立つ日は、まだ決まっていない。決まったら、タンタンをケージの中に入れ、ケージに慣れて落ち着いてもらえるようにトレーニングする。通常のハズバンダリートレーニングをある程度、中断してでも、ケージに慣れるためのトレーニングを優先するそうだ。

ケージは、さまざまな大きさで製作した。飛行機によって積めるケージの大きさが異なり、飛行機はまだ決まっていないためだ。ケージは9月15日時点で非公開。梅元さんは「タンタンは、ケージの中から外が見えないほうがいい。見えると落ち着かないだろう」と話す。

アメリカのパンダが中国へ行く場合、主食の竹や、おやつのリンゴも飛行機に積むことがある。一方、タンタンの場合は、飛行中にエサを与えない予定だ。四川省・成都の空港まで10時間以上かかるアメリカと違い、日本からは直行便なら約5時間で着く。それくらいなら、何も食べなくても問題ない。「パニックになって、誤嚥などが起きるほうが怖い」(梅元さん)。水はケージ内から飲める。

タンタンは屋内にいるとき、体重計の上でペレット(栄養を補助するビスケット)やリンゴを食べ、タイヤの穴にすっぽり入って竹を食べていることが多い。この体重計とタイヤは、お気に入りのように見えるが、中国へは持っていかない。

元気なうちに中国へ

心残りなことを尋ねると、梅元さんは「新たな雄が来なかったことと、最後まで(タンタンを)みてやれないこと。まあでも、元気なうちに中国へ帰ってもらうのも……」と言葉を濁す。

日本で最後の誕生日を迎えたタンタン(写真:筆者撮影)

タンタンは、王子動物園と都江堰基地のどちらで暮らすほうがいいのだろう。梅元さんは「僕はここの方がいいと思う。2人でつきっきりでみてるし。中国へ行ったら、たくさんパンダがおる中で、ここまでみてもらえへんやろし。自然環境はわからないが、飼育体制は、ここのほうがいいのでは」と話す。一方、吉田さんは「僕は中国。ここで死ぬよりも、ふるさとで死んだほうがいいんやないか」と意見が分かれた。

タンタンに会いに中国へ行くの?という問いには、2人とも「なかなか行けない。誰かが行って、ネットにアップしてくれるのを見る」そうだ。

王子動物園は、タンタンが中国へ旅立つ日が決まったら、その日の1カ月以上前に発表する予定にしている。タンタンが神戸にいる残された1日1日を、飼育員とタンタンは大事にすごしている。

中川 美帆 パンダジャーナリスト

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なかがわ みほ / Miho Nakagawa

福岡県生まれ、早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)

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