中国に帰る「神戸のパンダ」25年の劇的な半生 飼育員は赤ちゃんを失ったタンタンを支えた
タンタンの「伴侶」のコウコウ(興興)が2010年に死んで、王子動物園のパンダがタンタン1頭になると、中国側と協議して、雄の補充を目指すことになった。
その準備のため、王子動物園では日本人飼育員を、四川省にある中国大熊猫保護研究中心(中国ジャイアントパンダ保護研究センター)の雅安碧峰峡(があんへきほうきょう)基地で研修させるようになった。 この基地は筆者も行ったことがあるが、山の中で、観客は少なく、20mほどありそうな高い木に子パンダたちが登っていた。
数十頭~100頭ほどのパンダを飼育するこうした基地は四川省に複数あるが、雅安の基地は、世界中から研修者を受け入れている。梅元さんは2011年3月の3週間を皮切りに計3回雅安へ行き、延べ約60日間研修した。吉田さんは2012年3月に10日間、2014年7~8月に12日間、研修を受けた。基地から車で40分ほどの場所にあるホテルから通ったが、授業を受けたり、出産の手伝いをしたりといったことはなく、ほとんど見学だった。それでも貴重な経験だ。
獣医師の谷口祥介さんも2014年7~8月に12日間、2015年3月に12日間、雅安で研修を受けた。通常、春はパンダの発情期、夏は出産期だ。「夏はパンダの破水から出産まで見学。春は自然交配とその後の人工授精も見学できた」(谷口さん)。
雌が発情のピークに達して交尾できるのは、1年間で3日間ほどしかない。この限られた期間に複数の雄と雌のペアで交尾を試みる。交尾できなければ相手を変える。交尾の翌日、妊娠の確率を高めるために人工授精をすることもある。
中国で学んだ経験が活きてくる
コウコウの死の翌2011年、神戸市は中国側と新たに雄のパンダを借りることで合意した。だが、雄は来なかった。日中関係の悪化が原因という見方もあるが、因果関係は不明だ。
繁殖方法を学んでも実践できなかった一方で、雅安で学んだハズバンダリートレーニング(動物の健康診断や治療を安全に行えるようにするトレーニング)の方法は役に立った。
王子動物園では、タンタンの来園時からトレーニングしていたが、梅元さんらが雅安で研修した2011年からより強化するようになった。飼育員さんだけのときは、口の中の検査、検温、目の消毒などを実施。獣医師さんがいるときは、これらに採血やレントゲン検査の練習、聴診、血圧測定、超音波検査などが加わる。口の中の検査や血圧測定や超音波検査は、タンタンの加齢に伴い追加した。
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