中国に帰る「神戸のパンダ」25年の劇的な半生

飼育員は赤ちゃんを失ったタンタンを支えた

飼育員さんがタンタンに呼びかけると、どうなるのだろう。梅元さんは「僕らの声は絶対に覚えている。呼んだら耳が動く。嫌なときは顔を向けず、耳だけ動かす。面倒くさいんやろな」と話す。吉田さんも「最近、ほんまにそれが多い。耳だけ動かして、目は薄っすら開けている。完全に気づいとるけど『ほうっといて』みたいな」と同意。2人とも、タンタンは世話が焼けるという素振りを見せながら、かなり嬉しそうだ。

ちなみに筆者がタンタンの容姿の特徴を2人に尋ねたら、「四肢が短い。ドラえもんと書いといてください」と梅元さん。すると吉田さんがおもむろに「せっかくやから、キティちゃんとかにしてくれんかなあ……」と筆者に言い、梅元さんが「キティちゃんやないよ~。そんならドラミちゃんでええわ」と、コミカルな掛け合いもあった。

小柄で短足なので、観覧者から、よく子どものパンダに間違えられるタンタン。だが、老いは確実に進んでいる。腕に白髪が生え、耳は汚れがひどくなった。「耳は粘液が固まり、黒い毛がピュッと出てくる。毛を取らんと長く太くなって汚い。かわいそうやし危ないから、引き抜くかハサミで切る」(吉田さん)。毛を引き抜いても、タンタンは痛くないそうだ。

排泄の仕方も変わった。これまでは、ちゃんと溝で排尿していたのに、最近は寝台から降りないまま、自分が濡れる場所でするようになった。あまり動きたくないのだろう。

飛行機に乗るためトレーニング

飼育員さんがタンタンと過ごした約10年間で印象に残っていることは、「2008年の出産。初めてパンダを担当して、パンダが生まれ、嬉しかった」と梅元さん。吉田さんは「担当になってすぐの頃は、言い方は悪いが、面白くない時期だった。雄が来るかと思ったら来ないし。でもその後、特に高齢パンダと言われるようになってから、自分の中で充実していき、面倒をみなければ、という気持ちになった」と振り返る。

2人とも、タンタンの中国行きは、今年3月に中国から通達が来て知った。「なんでなん!?ってなった。このままずっと飼育が続くんやろなと思ってたから」(吉田さん)、「驚いた。期限は単純に延長されると考えてた」(梅元さん)と話す。

タンタンの行き先は、四川省にある中国大熊猫保護研究中心の都江堰(とこうえん)基地。王子動物園からは、上山裕之園長、飼育員1人、獣医師1人の計3人が都江堰まで同行する計画だが、コロナ禍のため中国に入国後、14日間の隔離が必要になるかもしれず、不透明な状況だ。

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