ヤマハ、「本物」に近づけた電子ピアノの使命 高度な技術力を要する「音の響き」で差別化

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今回の新製品では、鍵盤を押してから離すまでのタッチの変化に応じた音など、繊細な音色変化を再現できる点にこだわって作られた。7月に行われた新製品発表会で演奏したピアニストの須藤千晴さんは「電子ピアノの領域を超えている。思った通りに表現できる安心感がある」と感想を話す。

実は音の響きやその再現はヤマハが技術力で差をつけやすい分野だ。総合楽器メーカーとして多種多様な音を採取する環境があるほか、電子ピアノに取りつけるスピーカーの最適な配置などは音響機器事業のノウハウが生かせる。中田社長は「特に音についてはエキスパートとして譲れない点だ」と強調する。

総合力で優位性を保てるか

電子ピアノは信号処理によって音の出力が行われるが、ヤマハは自前で半導体の製造を行っており、本物のグランドピアノの繊細な音を再現するための演算処理ができる半導体を開発している。

巣ごもり需要で楽器人口が拡大し、さらに本格的な演奏を楽しみたい層が広がる可能性もある。加えてアジアでは子供の情操教育の熱が高まっている。中国や新興国の学校などでの利用も増えており、電子楽器市場の伸びは確実だ。

アコースティックピアノ、音響機器、半導体などのエレクトロニクスの技術力と「CLP-700」はヤマハの技術力の結晶とも言える。河合楽器製作所、カシオ計算機、ローランド、コルグなどライバルがひしめく中でも、総合力で優位性を保てるか今回の新製品は試金石だ。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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