ヤマハ、「本物」に近づけた電子ピアノの使命 高度な技術力を要する「音の響き」で差別化

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しかし、販売競争は激化しており、ヤマハの電子ピアノ事業を取り巻く環境は厳しさを増している。全国の家電量販店などのPOSデータを集計しているBCNが8月に発表した2020年上半期の電子ピアノ実売データによると、1位はカシオのPriviaシリーズの電子ピアノだった。ヤマハ製品は2位で、3位は電子楽器メーカー・コルグ製品だった。商品別トップ10のうちヤマハ製は半数を占めたが、いずれも価格は10万円前後だ。

主力モデルである「PX-S1000」(写真:カシオ計算機)

電子ピアノが好調な理由について、カシオ計算機楽器BU(ビジネスユニット)の松田貴生戦略部長は、「ピアノなどの楽器は、10歳まで学んだ後にやめる人が多い。子供時代にピアノを学んでいた“休眠層”がコロナ禍で戻ってきているケースが多い」と分析する。こうしたユーザー層はエントリー向けの手頃な価格を求める傾向があり、売れ筋がそこに集中している。

10万円以下の電子ピアノでもアコースティックピアノの鍵盤構造を再現した本格的な電子ピアノが出てきていることもヤマハには逆風だ。単にタッチ感だけでの差別化が相対的に難しくなり、価格競争の側面が色濃くなっている。

弾き心地の「再現」で競い合う

グランドピアノやアップライトピアノなどのアコースティックピアノは、鍵盤を押すと、その先にあるハンマーが動いて金属製の弦を叩き、音が鳴る仕組みだ。これに対し、弦がない電子ピアノは鍵盤が電子音源を発するためのスイッチのような役割をもつ。そのため、弾いたときに鍵盤を軽く感じるなどアコースティックピアノとは感触が異なる点も多い。

近年は電子ピアノにもアコースティックピアノと同じような弾き心地を再現しようとする流れが強まっている。多くのピアノ曲はアコースティックピアノのために作られたもので、特にクラシック音楽ではその傾向が強い。演奏者が思い通りに曲を表現するには、グランドピアノのような音やタッチ感が重要となるからだ。

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