首都圏で「違法金属くずの山」が次々現れた事情 廃棄物処理法守らず環境汚染する事例が続出

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埼玉県小川町にヤードがあるT社の社長は「県が立ち入り検査を行ったときに敷地内にあった冷蔵庫や洗濯機は、たまたま間違えて(荷から)下ろしたものがあったということ。今は、ありません。法律的に問題になるものは扱わない、さわらないつもりだ」と話す。

つまり、家電リサイクル法、小型家電リサイクル法の対象となる使用済み家電を含まなければ、雑多なものが混じったスクラップを集め、解体・分別し、資源として売ることは合法になるのでそうする、ということだ。

県に届け出をすれば、家電リサイクル、小型家電リサイクル法が扱う使用済み家電を含む雑品スクラップを扱うことができる。なぜそうしないのか。「届け出をすると、囲いや掲示板の設置、保管する堆積物の量や高さ、土壌や地下水の汚染防止、強風による飛散防止など、さまざまな処理基準やルールを守らなければいけなくなる」(リサイクル業界関係者)と思われているからのようだ。

約3分の2の事業場が廃業か無届け

実際、届け出件数は少ない。環境省によると、2019年10月1日時点で届け出を済ませた事業場は、全国で405(うち363事業場は保管のみ、42事業場は保管と処分を行う)。法律改正が検討されていたころ、全国で雑品スクラップを扱っていたヤード業者は約1300とされた。約3分の2が廃業したか無届けのまま続けている計算になる。

無届けの事業場の場合、周辺環境に悪影響を及ぼすことが多い。埼玉県小川町のT社は無届けで、紫色の廃液を敷地外に流出させた。埼玉県が改善命令を出した川島町の事業場も無届けで、堆積物の重みで鋼板囲いが敷地外の路上に倒れこみそうな状況だった。

左側の鋼板の内側には堆積物が積まれており、 その重みに押され、鋼板が傾いている(埼玉県川島町で)

「無届けの業者には、処理基準やルールを守る義務はない」と考えるのは、誤りだ。無届けであっても、2つの法律が扱う使用済み家電を扱っている場合、処理基準やルールを守る義務がある。廃棄物処理法には、届け出をしない場合、罰金30万円の定めもある。

夏が終わり、日本列島は台風シーズン真っただ中。台風でなくとも強風、突風、大雨が増えている。最近は、強風にあおられて飛んできたものが架線に引っかかり、鉄道が止まるといった事例も増えた。雑品の堆積物が周辺に飛び散るリスクも抑えてほしい。

紫色の廃液がヤードの外に流れ出したのは、大雨の翌日だった(写真:周辺住民提供)
河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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