「親の宗教」に20年囚われた女性が語る壮絶過去 薬は不可、自宅には「幹部」が交代で同居

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以来道子さんは、A教のさまざまな「教え」に、強く縛られて生きてきました。例えば「体に悪いものをとってはいけない」という教え。薬は悪いものとされており、病気になっても、熱が出ても、薬を飲んではいけないのです。そのため道子さんはA教を離れてからも、なかなか病院に行けなかったそう。「教えを破れば悪いことが起きる」と、つい考えてしまうのです。

「魂が曇る」からということで、「怒り」をもつことも禁じられていました。もしそういう感情をもってしまったときは、神様にお詫びをしなければなりません。これはつらいでしょう。「怒りをもつまい」とすれば、その感情の行き場がありません。

「よくないことが起きると、なんでも『自分のせいだ』と思っていました。怒る気持ちが出たら『こんな気持ちになってごめんなさい』って神様に謝るんです。自分で自分の気持ちを打ち消し、打ち消し、やっていたんですね。今思うと、ひたすら自己評価が低くなるような思考の癖がついていました」

道子さんと一緒に入信した姉は、すでに大人になっていたためか、それほどA教の教えに縛られず、「平気で煙草を吸ったり」していたそうですが、道子さんは違いました。幼い時期に教えを受けたせいか、あるいはもともとの性格か、「ダメと言われたものは、もう絶対にダメ、と思っていた」と言います。

お金を持つことにも長い間罪悪感があったといいます。「ある分だけ神様にご奉納しないといけない」と思い込まされてきたからです。

「お金というのは神様から貸し出されているものだから、返さないといけないと思っていました。だから高校生になって初めてアルバイトをしたときも、大した額ではないけれど、『ご奉納しないといけないかな』って」

ずいぶんとA教に都合のいい「教え」に見えます。信者の多くがこう思っていれば、お金を集めることは、とてもスムーズだったでしょう。

教えに従わなければ悪いことが起きるし、逆に悪いことが起きたときは、その人の行いが悪かったせいにされる――。365日、四六時中、つねに“脅迫されっぱなし”のような状況です。道子さんは小学生のときから、そんな日常を送ってきたのです。

遊びよりも勉強よりも「儀式」が優先される

中学、高校の頃、道子さんの家にはつねに住み込みの「幹部」がいました。「幹部」というのは、出家をしてA教に奉仕する人(ただし給与は出る)の呼び名で、皆20代の若者でした。1人1年くらいずつ、全部で5人の「幹部」が交代で住んでいたといいます。その頃、父親はほぼ寝たきりの状態だったので、いつでも「儀式」を行えるように、という名目でした。

「もう、落ち着かなかったです。最初の頃は食事も(家族と)一緒だったし、お風呂も共用で気を使ったし。A教は週に1度、休みの曜日があって、そういう日は私が学校から帰ると家のソファに(住み込みの「幹部」が)寝ていたりする。家にあるものを家族以上に勝手に食べてしまう人もいたり、すごく落ち着かなくて」

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