ジョブズがiPhoneのような離れ業に込めた意図 共鳴してくれる友達のために「作品」を届けた

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「The best way to predict the future is to invent it」(未来を予測する最良の方法は、自分で未来を生み出すことだ)PCのコンセプトである「ダイナミック・ブック」や「コンピュータ・リテラシー」を構想した。元アップル・フェロー。アラン・ケイ 1993年12月8日(撮影:小平 尚典)

例えばポケットに入れて歩くうちに誤って音楽が再生されたり、電話をかけてしまったりすることをどうやって防ぐか。オンとオフのスイッチを付ければ簡単だが、ジョブズはエレガントではないと言って付けたがらない。そこで画面に触れた状態で指を滑らせることによって、スリープ状態の画面が開く「スワイプ起動」が採用される。

ガラスの問題も難題だった。彼はiPhoneのスクリーンをプラスチックではなくガラスにすることにこだわった。しかしポケットに入れて持ち歩く携帯電話の場合は落とす可能性もあるから、傷がつきにくく強いガラスが必要になる。ここでもジョブズはかたくなさを発揮して「ゴリラガラス」と呼ばれる特殊な強化ガラスの製造にこぎつける。

こうして電話をかけたいときには数字のパッドが表示され、文字を入力したいときにはタイプライターのようなキーボードになり、別の何かをしたいときには必要となるボタンが表示される、という魔法のようなマシンが生まれた。しかも動画は画面いっぱいに楽しめる。いまでは誰もが普通に使っているものだが、そこに搭載されているシンプルな機能の1つひとつが、ジョブズのもとに集まったスタッフたちのクリエイティブなアイデアと技術の結晶だった。

ジョブズは何のためにあそこまでこだわったか?

結局、賭けに勝ったのはジョブズだ。優秀なスタッフを限界以上に働かせて大きなリターンを手繰り寄せるというのは、彼にしかできない離れ業と言えるだろう。それにしてもなんのために、ジョブズは自らの命を縮めるような離れ業を演じたのだろう。また演じ続けねばならなかったのだろう?

われわれの仮説によれば「友達」を得るために、である。完成した製品を発表する。新しいガジェットを受け取って「めちゃくちゃすごい!」と言ってくれる。そうした「友達」をジョブズは求め続けた。

アップルに復帰してからのプレゼンテーションでは、こんなことを言っている。

「アップルのコンピューターを買う人というのはちょっと変わっていると思う。アップルを買ってくれるのは、この世界のクリエイティブな側面を担う人、世界を変えようとしている人々なんだ。そういう人のためにわれわれはツールを作っている」「われわれも常識とは違うことを考え、アップルの製品をずっと買い続けてくれている人々のためにいい仕事をしたいと思う。自分はおかしいんじゃないかと思う瞬間が人にはある。でも、その異常こそ天賦の才の表れなんだ。」(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』)

ぼくには「友達」に向けてのメッセージのように聞こえるのだが、どうだろう? そのメッセージには、どこか寂し気な音色が流れている。

第10回に続く)

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