ジョブズがiPhoneのような離れ業に込めた意図

共鳴してくれる友達のために「作品」を届けた

写真家アンセル・アダムスがこよなく愛した世界遺産・ヨセミテ国立公園のハーフドーム。ここ聖地ヨセミテでジョブスは1991年3月スタンフォード大学経営大学院のMBA講座で出会ったローレン・パウエルと結婚式をあげた。1995年6月25日(撮影:小平 尚典)

しかしガンジーやジョン・レノンやキング牧師となるとどうだろう。会社のブランド・イメージとしては、かなり「危険」なラインと言えるのではないだろうか。さらにアンセル・アダムズ(写真家)、フランク・ロイド・ライト(建築家)、マーサ・グレアム(モダン・ダンスの創始者)、リチャード・ファイマン(物理学者)、ジェームズ・ワトソン(DNAの分子構造の発見者)、アメリア・イアハート(女性で最初に大西洋単独飛行を成し遂げる)にまで広げる無茶は、ジョブズにしかできないだろう。

要するに「反企業的でクリエイティブでイノベーティブな反逆者」といったイメージで自社ブランドを語ったことになる。だがそれ以上に、このラインナップはジョブズ自身のメンターや仲間をあらわしているように思える。もちろんラインナップの最後尾には本人が加わる。つまりCMに登場する人たちは、彼が理想とする惑星に登録されている住人なのだ。そこからつぎのようなメッセージが発信される。

「きみもぼくらの惑星の住人にならないか」

「どうだい? きみもぼくらの惑星の住人にならないか」

このCMが最大公約数的なマスを想定としたものでないことは歴然としている。むしろ差別化と差異化に向かって強く働きかけるものだ。「きみはどのコンピューターを選ぶ?」とたずねるかわりに、「このCMを見てどう思う、クールと感じるかい?」とたずねているわけだ。問いかけられているのは、コンピューターを使って何かクリエイティブなことをやろうとしている1人ひとりのユーザーである。そしてメッセージに共鳴してくれる者、クールでかっこいいと思ってくれる者が、ジョブズの惑星の住人として招き入れられる。

ジョブズのコンピューター・ビジネスに対する考え方は一貫している。ハードウェアもソフトウェアもエンド・ツー・エンドで統合すべきだということである。当然、それはクローズドした互換性がないマシンになる。マッキントッシュのオペレーティング・システムはマッキントッシュのハードウェアでしか動かない。こうした何から何まですべてをウィジェットにするというアプローチで、ジョブズはiPod、iPhone、iPadなどいくつもの際立つ製品を作ることになる。

このあたりはビル・ゲイツとは対照的である。ゲイツのやり方は明らかに不特定多数のマスを対象としたものだ。それは彼の提供するものが普通の商品でありサービスだったからだろう。面白みのないやり方かもしれないが、市場を占有するには適した戦略と言えるかもしれない。

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