製品を入れる箱の材質やデザインにも繊細すぎるほどまでにとことんこだわった。最高の製品、最高の品質という自負があったからこそ、最良の形で提示したいと思ったのだろう。
箱だけではない。アップルを追放されたあと立ち上げたNeXTのロゴグラフのときも大変だった。このロゴをデザインするためにジョブズはグラフィック・デザイナー(ポール・ランド)に10万ドル払ったと言われている。「e」だけ小文字になっているとか、文字はキューブの表面に描かれ、キューブは左に28度傾いているとか、おそらく本人にだけわかる深遠な哲学があったのだろう。
デザインのこだわりを組織の中でビジネスに結び付けた
1991年、ジョブズはローリーン・パウエルと結婚する。さあ、新居に入れる家具選びが大変だ。「私たちは家具とはなんぞやという話を8年もしました。ずいぶんと時間をかけ、なんのためにソファを買うのかということを考えたのです」と夫人は語っている(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』)。
「1時間半ではなく1時間で洗濯が終わることをいちばん重視するのか。服の肌触りがとてもソフトで長持ちすることをいちばん重視するのか。水の使用量が4分の1ですむことを重視するのか。こういう話を夕食のたび、2週間くらい話し合ったよ」(同前)と、本人も認めている。ほとんど病気である。一事が万事、こういう人だった。
因果な性格に生まれついたと言えばそれまでだが、ジョブズが面白いのは、公私にわたるデザインへの偏執狂的なこだわりを、アップルという会社組織の中でビジネスに結び付けた点だ。しかもほとんどの場合、それはうまくいった。なぜなのか?
1つにはジョブズのデザインへのこだわりが、単なる印象や表面的なことばかりではなく、製品の機能や実用性と緊密に結び付いていたからだろう。使いやすさを追求していった結果として、クールで洗練されたデザインが生まれている。冷却ファンの問題も、コンパクトで明るい収納ケースも、個人が気軽に快適に使えるというパーソナル・コンピューターとしての機能と結び付いている。