送りバントを妄信する日本球界が気づかぬ現実 野球離れを加速させる「データ野球」の軽視姿勢

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マクラッケンは多くのデータから「投手が本塁打以外の安打を打たれる率は、だいたい3割前後になる」ことを発見。ここから「本塁打を除く安打は『運の産物』」という結論を導き出した。

BABIPは、本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合であり、長期的に見れば、打者のBABIP、投手の被BABIPは能力にかかわりなく、ほとんど3割前後になる。

野球選手の最高の栄誉は打率1位つまり首位打者になることだったが、マクラッケンは、これを「運の産物」と決めつけた。賛否両論が飛び交ったが、今に至るもこの説を覆す有力な反証はない。

その結果として「打率」「得点圏打率」「防御率」、さらには「打点」など「運」の要素が絡む指標は、セイバー的にはあまり意味のないものだとされるようになった。身もフタもない考えだが、今ではこの考えがMLBの主流になっている。

セイバーメトリクスが一般社会に認知されたのは、マイケル・ルイスの小説『マネーボール』がベストセラーになったのが大きい。弱小アスレチックスのゼネラルマネージャー(GM)ビリー・ビーンがセイバーメトリクスに注目し、出塁率が高い無名の選手を掘り出して中軸に据え、優勝したという実話をもとにした小説だ。

2011年にはブラッド・ピット主演で映画化されたが、アスレチックスの成功以降、MLB球団ではセイバーメトリシャンを顧問として雇い入れ、その考えに基づいてチームを構築するようになった。

進化を続けるアメリカのデータ野球

当初はMLBの公式記録を加工するだけだったセイバーメトリクスは、しだいに試合のビデオなどを基に独自のデータを採取するようになった。こうなると、素人の記録好きには手が負えなくなってくる。

そしてついに、セイバーメトリクス系指標の集大成ともいえるWAR(Wins Above Replacement)が考案される。これは投球、打撃、守備のさまざまな指標を組み合わせてできたものであり、投打を含めたあらゆるポジションの選手を同列で比較できる。

WARは現在では、Baseball ReferenceとFangraphsという2つのデータサイトから別個に発表されているが、そのランキングはほぼ同じだ。そして、MVPなど記者投票で決まるMLBの主要な表彰は、WARが基準となることが多い。近年はほとんどの年でWAR1~2位の選手がMVPやサイ・ヤング賞に選ばれている。

MLBのデータ野球はさらに進化している。各球場では特殊カメラやGPSを利用して選手のプレーの一つひとつを数値化し、評価するトラッキングシステムが導入され、投手の球速や回転数、回転の方向、打者のスイングスピード、打球処理の速さ、的確さなどが逐一記録され選手の評価に直結する。

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