送りバントを妄信する日本球界が気づかぬ現実 野球離れを加速させる「データ野球」の軽視姿勢

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MLBの公式サイトのSTATS(記録)欄には、通常の成績に加えて、STATCASTという外部サイトとリンクされている。このサイトでは、トラッキングシステムなどで計測された選手の打球速度や飛距離などのランキングがずらっと並んでいる。

今や旧来の成績の重要性は薄れ、こうしたデータで上位に来る選手が高年俸を得るようになっている。さらに、アマチュア野球でもトラッキングシステムが使用され、選手のポテンシャルが契約に結び付いている。

わずか30年ほどで、アメリカの野球のデータ化は想像以上に進んでいるのだ。

1990年代までは、データ野球では日本も引けを取らなかった。

「記録の神様」と呼ばれた故・宇佐美徹也が記録に関する多くの著作を出版。中でも『ON記録の世界』(読売新聞社)は、王貞治、長嶋茂雄という不世出の大打者のデータを1打席1打席分析した空前の大作だった。

ほかにも、毎年『プロ野球全記録』(実業之日本社)という子供向けの冊子を出したが、そのレベルは非常に高かった。さらに『プロ野球記録大鑑』(講談社)という集大成も刊行した。

宇佐美徹也はセイバーメトリクスにはほとんど言及していないが、年度のリーグ打率の変動を補正したTBA(True Batting Average)という指標を考案するなど、記録を使って選手の真の実力に迫ろうという意欲を見せていた。筆者もその一人だが、宇佐美徹也のファンから「宇佐美チルドレン」とでもいうべき記録マニアがたくさん育った。

しかし、21世紀に入って宇佐美徹也が執筆活動をストップさせると、野球記録ブームは下火となった。セイバーメトリクスがMLBで重要視されるようになっても、日本野球機構(NPB)や主要メディアはほとんど取り上げなかった。

価値観が大きく異なるNPBとMLB

野球選手上がりの指導者や解説者は、野球経験のない素人が提示するセイバー系のデータへの抵抗感が強かった。

筆者はある年の春先にCS放送の野球番組に出演して、前年、登板過多だったある投手の今季に懸念があると述べた。その際、投手コーチ出身の解説者に「それはない」と、ぴしゃりと否定されたことがある。その投手はこの年、ほとんど働けなかったのだが……。

テレビ、新聞などのメディアがセイバーメトリクスをあまり取り上げないのは、現場やOBのアレルギーがあるからかもしれない。

NPBでは今、広島を除く11球団でトラッキングシステムを導入。選手のパフォーマンスのデータ解析を行っている。球団職員の中にはデータ専門家もいるが、このデータを球団がどこまで活用しているのか、疑問が残る。

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