コロナ専門家会議が解散するまでの一部始終 釜萢敏日本医師会常任理事が語る反省と課題

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釜萢 敏(かまやち さとし)/1953年生まれ。日本医科大学卒業。小泉小児科医院院長、高崎市医師会会長などを経て、2014年6月から日本医師会常任理事。2020年2月、政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議構成員」(撮影:梅谷秀司)

――専門家会議については、議事録が作成されていないことがマスコミから指摘されるなど、組織のあり方も問われました。

会議体は内閣官房の要請に基づいて招集されたが、事務方から「この会議は国の基準から、議事録ではなく議事概要を作成して公表する形になる」との説明があり、「そういうものなのか」と受け止めた。私を含め、メンバーからは異論は出ていなかったと記憶している。

――専門家会議が注目を集めるきっかけとなったのが、第3回会合が開催された2月24日でした。この時、専門家会議のメンバーが独自に会見を開き、「これから1~2週間が急速な拡大に向かうか収束できるかの瀬戸際である」と発言しました。

国民に直接訴えかけることの是非については、メンバーの中でもさまざまな議論があった。そもそも専門家会議は、国からの諮問に対して答申を行うのが役目だった。しかし、政府はクルーズ船への対応をはじめとした一連の対策にてんてこ舞いで、国民が求めるメッセージを十分発信できていないという感じが強かった。

そこで政府の諮問に答えるだけでなく、公衆衛生や医学、医療提供にたずさわってきた専門家として、分析した情報を国民に直接伝える役目を担うべきではないかという議論になった。そのことについてメンバー全員の合意が得られたことから、「1~2週間が瀬戸際」という見解の表明につながった。このことは尾身茂副座長のリーダーシップによるところが大きかった。

欧米からの感染者流入に危機感

――国民にメッセージを発したことは評価すべきことだと考えられますが。

そのこと自体はよかったと思う。ただ、それぞれの組織の役割分担をしっかりと踏まえる必要があった。そもそも専門家会議が政策を決定するわけではないし、国民に責任を負える立場にもなかった。

脇田座長、尾身副座長や私を含めて記者会見に出席したメンバーはそのことをきちんとわきまえながら発言したと思う。しかし同時に、国民の皆様に専門家会議が重大な決定を行っていると受け取られ、批判もたくさんいただいた。情報発信の仕方には反省点もあった。

――専門家会議の議事概要や配付資料では、3月10日前後からヨーロッパやアメリカでの感染が増えてきたことが指摘されています。たとえば3月17日の第7回会議では、「専門家会議から厚生労働省への要望」として、次のような記述があります。すなわち「最近、海外からの移入との関連が疑われる事例が急増。(中略)帰国者および訪日外国人対応を至急開始する必要がある」と。

海外からの流入を何とかしないと大変なことになるという認識があった。中国からの入国に伴う感染は3月上旬までにいったん落ち着いたものの、中旬になると状況が大きく変わってきた。欧米からの流入による感染が急拡大した。

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