インフル予防がコロナ対策で取り沙汰される訳 罹患リスク低減だけでない効果がある可能性も

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読者の皆さんは、このような状況に陥るのは避けたいだろう。そのためにはインフルエンザや新型コロナウイルスに罹らないように予防を徹底するしかない。徹底した手洗い・消毒やマスクの着用などの基本的な対策に加え、私はインフルエンザワクチンの接種を強くお奨めしたい。発熱や上気道症状などの原因がインフルエンザなのに、新型コロナウイルスに感染していると疑われずに済む。

実はインフルエンザワクチンを推奨するのは、もう1つ理由がある。それはインフルエンザワクチンが新型コロナ感染を予防する可能性もあるからだ。

インフル予防接種者とコロナ患者の相関

アメリカ・コーネル大学の医師たちが6月4日、イタリアの高齢者を対象としたインフルエンザワクチン接種率と、新型コロナ感染時の死亡率の調査で、両者の間に統計的に有意な相関が存在したと報告した。インフルエンザワクチン接種率が40%の地域における新型コロナの死亡率は約15%だったが、70%の地域では約6%まで低下していたという。

もちろん、この結果の解釈は慎重になされなければならない。ワクチン接種率が高い地域は経済的に豊かで、健康状態がよい。両者の関係は単なる交絡かもしれない。ただ、彼らはこの点も解析し、その可能性は低いと述べている。

彼らが考えるもう1つの可能性は、インフルエンザワクチンが免疫力全体を活性化し、インフルエンザだけでなく、新型コロナウイルスに対する免疫力を高めたことだ。これは結核予防のために接種されるBCGワクチンが、新型コロナウイルスに有用ではないかとされる機序と同じだ。

繰り返すが、この考え方は現段階では仮説にすぎない。結論を得るには、今後の臨床研究の結果を待たねばならない。

今冬のインフルエンザの流行については懐疑的な声もある。インフルエンザは世界中を循環し、冬場に南半球から赤道を通って日本に流入もする。新型コロナウイルスの流行のため、海外との交流が激減している日本では流行は小規模かもしれないと考える専門家もいる。

私は、このような楽観論は禁物と考えている。日本経済にとって、いつまでも海外渡航を制限するわけにはいかず、インフルエンザの流入は避けられないからだ。インフルエンザは2019-20年のシーズンは流行していないため、日本人の集団的な免疫力は低下している。いったん流入すれば、大流行へと発展する可能性がある。そうなれば、インフルエンザワクチンの需要が高まり、品薄になるはずだ。

例年、早い施設ではインフルエンザワクチンは9月半ばから接種が始まる。確実な接種には、職場や最寄りの医師との調整が不可欠になるだろう。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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