無能な社長を増やす「給料安すぎ日本」の大問題 「モノプソニー」をなくして経営者を鍛えよ

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経営者の能力が低い企業は、本来なら競争によって淘汰されます。しかしモノプソニーの力が強く、給料が安く抑えられると、能力の低い経営者でも何とか会社を潰さずにすみます。

簡単に言うと、モノプソニーの力が強くなればなるほど、本来は経営者になるべきでない人でも経営者でいつづけられるため、小規模事業者が増え、全体の給料水準が引き下げられるという、非常にありがたくない結果を招くのです。

だから、政府は最低賃金を引き上げていくことで経営者に刺激を与え、経営者が低賃金にあぐらをかいて怠けてしまわないようにすることが大切なのです。

経営者こそ「結果責任」が問われるべき

さて、このように書くと、日本ではなぜか「中小企業の社長だって頑張っているんだから、酷いことを言うな」という反発が起きます。一方、給料が安くて困窮している労働者を「自己責任」と責める風潮もあります。

これは、本来は逆であるべきです。

経営者は事業が大成功したときのメリットを最大限に享受する立場ですし、ますます減少する労働者という貴重な資源を使っているのですから、結果責任を求められて当然です。日本は労働者の人材評価が極めて高いにもかかわらず、生産性は世界第28位です。労働者の力を引き出せていない経営者の評価が低いのは当然です。これは明らかに労働者の問題ではなく、経営者の問題です。

一方、立場の弱い労働者はモノプソニーの力で「買い叩かれて」いるのですから、一方的に「自己責任」と責められるべきではありません。日本ではなぜか、責められるべき経営者が守られ、守られるべき労働者が責められるという、あべこべな事態になってしまっているのです。

何より大切なのは、給料が安いことによって経営者が受けるメリットは、社会全体に対するマイナスより小さいことです。この問題を放置しては、人口減少下、社会全体が衰退して、国家が弱体化することを忘れてはいけません。

日本はこれから人口が大きく減少します。しかも、世界に冠たるモノプソニー大国になっており、低い生産性を引き上げることができなくなってしまっています。

こうなってしまった以上、最低賃金を段階的に引き上げ、モノプソニーの力を是正するしかないでしょう。そうすることによって、日本でも世界でも確認されているように、小規模事業者の数が減り、中堅企業と大企業に労働者が移ります。これら生産性の高い企業で働く労働者の割合が増え、全体の所得水準が上がるはずです。

もちろん、労働力の大規模な移動は急にできるものではないので、適切な最低賃金の引き上げを続ける一方で、徐々に中堅企業の支援を強化するべきです。日本経済が再生するシナリオはこれしかありえません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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