もちろん、早い段階からひとつの種目に絞って強化することのメリットはある。ゴルフやフィギュアスケートのように繊細な技術を必要とする種目では、幼い頃から始めて、そのスキルを磨いていくことが世界で戦うための手段となる。しかし、特定の種目しかしてこなかった選手は、アスリートとしての“総合力”ではバランスに欠けるため、他競技への応用力はあまりない。反対に複数のスポーツをすることで、アスリートとしての幅を広げることができる。選手の“土台”が広くなれば、その上にいくつもの技術を積み上げていくことが可能で、シニアになったときに、大きな花を咲かせることができるだろう。
マルチアスリートが日本のスポーツ界を救う
中学校の陸上部に所属していた五十幡が、ただ走るのが速いのではなく、速く走るための「技術」を知っていたことは、顧問の先生のきめ細かい指導があったからだと思う。そして、その経験が、野球にも生かされてきた。中学3年生の夏の時点で、五十幡の身長は170cmで体重は55kg。それほど筋肉がついておらず、どんな競技を選択しても、伸びる余地は十分にある。
佐野日大は野球だけでなく、陸上部も名門として知られており、インターハイチャンピオンも輩出している。五十幡に「陸上もやりたい」という気持ちがあるならば、野球と陸上、ふたつの競技を学校の部活動で続けられる環境があってもいいのではないだろうか。
15歳から新たな競技を始めても、種目によっては、シニアで世界レベルの選手になれる可能性もある。また、近年は少子化の影響もあり、ラグビーなどひとつの学校では公式試合に出場できない部もあることを考えると、日本の高校でも複数の部活を選択できるようにして、マルチアスリートを増やしていくべきだろう。
別の視線でいえば、運動部だからといって、毎日、部活動で汗を流す必要もない。週に1~2回しか活動しない運動部員がいてもいい。受験勉強や学習塾があるからと、部活動で得られる“絆”や“青春”をあきらめるのはナンセンスだ。練習日数というハードルを下げれば、多くの生徒が高校でもスポーツを楽しむことができるはずだ。
2020年、東京でオリンピックが開催される。成長著しい高校生ならば、これからの6年間で大きな進化が期待できる。この春、「金の卵」を受け入れる高校が、複数の部活動を選択できるような環境を整えることができれば、日本のスポーツは変わると思う。子供たちの夢をかなえるため、才能あるアスリートの可能性を広げるためにも──。
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