「子どもに尽くしてこそ母」という強烈な思想 「個」を消すための装置に囲まれて
――一方で、堀越さんの書かれた『スゴ母列伝』では、型にはまらない女性たちが紹介されていますね。
この本には、子育てのモデルになるようなお母さんは全然出てきません(笑)。破天荒な人たちばかりなんです。
例えば随筆家の黒柳朝さん。黒柳徹子さんのお母さんで、『チョッちゃん』という朝ドラにもなっているので、ご存じの方も多いかと思います。
朝さんは、徹子さんが小学校1年で退学になったときも、「うちの子は何もまちがっていない」と信じて、子どもに合う学校を探しました。
その結果、娘の徹子さんは『窓際のトットちゃん』で書かれたような、自由な学校生活を満喫します。
朝さんは、世間の子育ての規範にまったく動じず、「子どもは自由に育てるべきだ」という信念を貫きました。
あるべき姿に縛られない母
作家の岡本かの子さんも型破りです。執筆活動に専念するために、小さな岡本太郎さんを「柱に縛りつけていた」なんて話もあります。今だったら虐待で大問題ですけど(笑)。
ただ、子どもの世話は苦手だったかの子さんですが、幼い息子を対等な人間として扱うことは一貫していました。
おかげで小学校に上がった岡本太郎さんは理不尽な先生に黙って服従することをよしとせず、1年生のときに3つの小学校を辞めています。
親子ともども破天荒ですが、「そんな育児でも大芸術家が育つなら、縛りつけたことのない自分の育児は大丈夫ではないか」と、奇妙な安心感を得ました(笑)。
今の社会は「お母さんは〇〇であるべき」という縛りがたくさんあります。だけど世の中は広いし、国や時代によって、決まりごとは全然ちがいます。
個性の強いお母さんたちのもとでも、子どもはちゃんと育ちました。「あるべき姿」に悩みすぎず、「自分は自分だ」と思って、気を楽にしてもいいのではないでしょうか。