半導体は米中によるハイテクでの主導権争いの核心といえる分野だ。2017年に東芝が半導体事業の売り先を探したときも、日本政府には水面下でアメリカ政府から「米軍のサプライチェーンから中国企業を排除したい」として、買い手候補から中国企業を外すように強い要請があった。アメリカではいまや軍事のみならず、5G(第5世代移動体通信)など幅広い分野が「安全保障」の対象とみなされ、「中国外し」が求められるようになってきた。
新型コロナは、この流れを加速することになった。ハイテクをめぐる主導権争いは構造的に続いてきたが、「新型コロナの影響による供給不安」が、中国をサプライチェーンから外すための格好の理由になるからだ。
中国も防戦に必死だ。中国共産党にとっては、自らが経済成長のかじ取りであることが政権の正統性に直結する。新型コロナによって2020年1~3月期のGDP(国内総生産)は前年同期比6.8%減というかつてない悪化を示したが、その逆風の中にあって中国経済の基盤である、グローバルに結びついたサプライチェーンを維持することは最優先課題だ。国内では新型コロナ、国外では米国との摩擦という二正面作戦を取らざるを得ない。
5月14日には共産党の最高指導部である中央政治局常務委員会が開かれ、全人代準備の総仕上げが行われた。このときも習近平国家主席は、「国際的な産業チェ―ンとサプライチェーンの安定と安全の重要性」を強調している。
米政府高官が「本国回帰」促す
4月9日、トランプ大統領の経済ブレーンである米国国家経済会議のラリー・クドロー議長は米テレビ局のインタビューで「中国への過剰な依存」についての見方を問われて、「アメリカ企業が本国に回帰する場合、工場などの費用の100%を政府が支払うだろう」と述べた。これは中国に進出したアメリカ企業に撤退を促すものと受け止められた。
それからほどない4月17日に記者会見した在中国米国商工会議所の会頭は、3月に行った会員企業への調査で「サプライチェーンや調達拠点をほかの地域に移す予定はない」とする企業が70%を超えていることに言及。「この結果は、会員企業の大部分が中国市場から撤退しないことを示している」とした。
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