ところが、新工場の発表と同じ5月15日にアメリカ政府は、アメリカ製の製造装置を使っている国内外の企業にファーウェイへの販売を禁止するという制裁強化策を発表した。これでファーウェイが先端半導体を入手するのは極めて難しくなった。かねてからTSMCのファーウェイ向け輸出を止めるため検討していたルール変更だ。
アリゾナ工場新設の一報を聞いた経済産業省幹部は「これまでも社内にファイアウォールがあるからファーウェイに技術が漏洩する心配はないとTSMCは説明してきたが、アメリカ政府は納得していない。アメリカに工場をつくっても根源的な解決にはならないのではないか」と指摘した。実際、その通りとなった。TSMCにとっては制裁強化を避けるための新工場だったが、まさか発表と同じ日のうちに次の爆弾が降ってくるとは想定していなかっただろう。
ファーウェイもTSMCの半導体が入手できなくなった場合に備えて、中国の半導体受託生産最大手である中芯国際集成電路製造(SMIC)からの調達を増やしている。しかし、TSMCとSMICの技術には5年ほど差があり、SMICがファーウェイの要求に完全に応えることは難しいという見方が強い。
中国はアップルなどに報復も
中国は5月22日に重要な政治イベントである全国人民代表大会(全人代)の開幕を控えており、極めて敏感な状況にある。それだけに中国政府は対応を慎重に検討しているようだ。替わってメッセージを発したのは、こうした場合に「観測気球」的な役割を担うことがある中国共産党系の新聞「環球時報」だ。
同紙は15日夜に電子版に掲載した社説で「アメリカがTSMCなどの企業へのチップ供給を遮断することで、ファーウェイをさらにピンチに陥れた場合、中国は特定の米企業を『信頼できない企業』としてリストアップし、クアルコム、シスコ、アップルなどの米企業に制限を課したり、調査したり、ボーイング機の購入を停止するなどの対抗措置を講じることになる」とアメリカを威嚇した。中国は、断交をちらつかせるトランプ大統領とのチキンゲームを受けて立つのか。
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