しかし、自社の戦略はさておき、米中対立の先行きには悲観的な企業が多いようだ。在中国米国商工会議所が2019年10月に行った調査では、対象企業の66%が「米中経済のデカップリング(分断)は不可能」と回答した。しかし3月の調査では、同じ回答の比率が44%に低下。「デカップリングは加速する」との回答が20%に増え、「デカップリングは後退する」はゼロだった。新型コロナの流行でデカップリングが進むという流れが鮮明になった。
「日本も米国に同調する」との疑念
そして中国の産業界を大きく動揺させたのは、日本までアメリカに同調するのではないかという疑念だった。クドロー発言と前後して、「日本政府が中国から撤退する企業に補助金をつける」と伝わったからだ。
1月23日の武漢市の封鎖からしばらく、日本では中国からの供給途絶が大きな関心事だった。これを受けて3月5日に開かれた政府の未来投資会議で安倍晋三首相は「中国などから日本への製品供給の減少によるわが国サプライチェーンへの影響が懸念される中で、一国への依存度が高い製品で付加価値が高いものについては、わが国への生産拠点の回帰を図る」と語った。
4月末に成立した2020年度の1次補正予算には、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2200億円がつけられた。早ければ5月中にも事業者の応募が正式に始まる。
特定国への生産拠点の集中度が高い工業製品や部素材について、国内回帰を促すのが目的だ。供給途絶リスクを解消するために日本に生産拠点を確保する場合は、建物・設備の導入費を大企業の場合は2分の1まで、中小企業の場合は3分の2まで国が補助する。これとは別に「国民が健康な生活を営むうえで重要な製品・部素材の生産拠点整備」も補助の対象となった。
時期が時期だけに、中国からすると日米が歩調を合わせて中国から撤退するように見える。だが、中国で日本に反発する動きは大きく広がらなかった。「リスク分散が目的で、中国からの撤退を促す意図はない」という日本政府の説明が受け入れられた格好だが、本質的にはほとんどの日本企業にとって巨大市場である中国から退出するメリットは小さいと踏んだからだろう。
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