実際に、中国に駐在する日系電機メーカー幹部は「中国のサプライチェーンは極めて強いと再認識しており、日本に生産拠点を回帰させる可能性はない。一方で各種の電機製品の需要が回復しているだけでなく、5G関連など新型インフラ整備の投資も立ち上がってきたため中国市場の魅力は大きい」と話す。こうした状況下で、電機や自動車など主要産業では国内回帰のための補助金を活用したいという話は聞こえてこない。
日系企業の活動再開も順調だ。4月1日~6日に、華東地域(上海、江蘇省、浙江省、安徽省)の日系企業710社を対象に行われた調査では、その時点でほぼ100%稼働を再開した企業が全体の6割超。また、9割近くの企業がサプライチェーンや拠点の変更計画はないと回答した。
中国で供給面での正常化が進展しているのは、経済指標からも見て取れる。5月15日に発表された4月の工業生産は前年同月比3.9%増加になり、4カ月ぶりにプラスに転じた。1-2月のマイナス13.5%、3月のマイナス1.1%から急ピッチで改善した。統計の対象となっている41分野のうち28分野、612品目のうち60% で前年同月比がプラスとなった。26%増となったパソコンや29%増の集積回路などが目立つ。
消費や投資はまだ前年同期比マイナスで外需も下振れの懸念が強いため、中国国家統計局の報道官も「全面的に正常な水準に回復したとは言えない」とコメントしている。それでも生産の回復はかなり明確になってきた。
中国では技術力が高い外資はサプライチェーンの核心を握っている。それだけに、中国政府も外資のつなぎ止めに懸命だ。4月20日には国家発展改革委員会が外資系企業の進出を制限・禁止する分野を示したネガティブリストを縮小する政策を発表した。
独立系経済メディアの「財新週刊」は4月20日発売号の社説で、日本や米国の動きについて、「新型コロナ流行のなかで台頭したいわゆる「脱中国化」の論調は重視するべきだが、過剰に反応するべきではない」と主張。「中国の最優先課題は、改革開放のペースを加速させ、ビジネス環境を継続的に最適化し、世界の産業チェーンとバリューチェーンにおける地位の向上に努めることである。現時点では、感染症対策の国際協力における『責任ある国』の役割を示すことが必要である」と指摘した。
トランプ流はそろばんに合うのか?
中国に国際社会で責任ある行動をとらせるためには、世界的なサプライチェーンに組み込んで利害関係を持っておくことが大きな意味を持っている。それを切り離して米中のデカップリングが実現し、中国が独自の経済圏を形成する方向に動き出した場合は、米欧や日本が中国の行動を止める方法は限られてしまう。「全部アメリカでつくる」トランプ路線が経済合理性に合うとは思えないし、人為的に壊したサプライチェーンを復旧するのには多大なコストがかかるだろう。
中国はトランプ大統領の挑発に乗って「環球時報」が唱えるような対決的な路線を選ぶのか、対外開放政策を進めて国際社会との協調を図るのか。前者であった場合、隣国である日本にとっては極めて大きな不安材料だ。また、米中どちらの市場も捨てられない日本企業は、サプライチェーンを二重に用意することを強いられかねない。中国の答えは、間近に迫った全人代で見えてくるはずだ。
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