「人権のイデオロギー化」が招く地政学的危機 正義よりも共感による対話の制度的枠組みを
リベラルな国際秩序の危機
安定と繁栄をもたらしてきたリベラルな国際秩序は、危機に直面している。それは民主化が進まなかったロシアや中国の地理的拡張であり、またリベラルな国際秩序を支えてきた覇権国アメリカの意志と能力の相対的低下でもある。
さらに、新たな危機として、人権のイデオロギー化がある。人権の国際社会における普遍化に伴い、多様な人権救済が唱えられ、また制度化されたが、その中で急進的な人権救済の動きが出てきた。
しかし、過去の人権侵害や戦争犯罪に対しての刑事司法的解決は、当該国の政治的・歴史的背景や、平和構築期における社会状況を顧みないゆえに、必ずしも効果的ではなかった。植民地責任問題や歴史認識問題での、実現可能性を越えた国家補償要求は、国家間対立を深めた。
確かに、多大な犠牲と努力の下に普遍化した人権規範は尊い。歴史的不正義を是正する動きは、抑圧されていた被害体験の記憶の噴出であり、一部の政治利用があるとはいえ、多くの被害者にとっては正義の追求である。しかし、人権のイデオロギー化は、人権規範自体を危うくし、社会対立を深め、リベラルな国際秩序の安定への脅威ともなる。
本稿では、人権のイデオロギー化を改めて把握し、人権のイデオロギー化をいかに防ぎ、リベラルな国際秩序と人権規範を守ってゆくかを考える。
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