「テレワークの問題」こそ会社組織の根本課題だ 日本型雇用体制では弊害ばかりが顕在化する

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財界を中心に「ジョブ型」への移行は叫ばれているものの、いまだ多くの企業が社員のグレード(格付け)を仕事基準ではなく「ヒト基準」で作り続けている。業務の属人性が高く、デジタル化も遅れている。

しかし、テレワークが組織の主流になると、日々の進捗把握や状況が極端に難しくなる。今回の調査でも、「部下の仕事の様子がわからなくなった」とする上司の割合は34.9%に上る。それまで職場で仕事の様子を見ながら実施していたジョブアサインは一気に機能不全に陥る。あとに残るのは、ただただ役割の曖昧さに戸惑い、何をやっていいかわからなくなる従業員の姿だ。企業としては、職務範囲の曖昧さに起因する弊害に気をつけなければならない。

2つ目の「業務」に関していうと、その曖昧さに付随して、メンバー間の業務の相互依存性が高いことに気をつけるべきだ。テレワークによって急に個業化したときに反動的に労働生産性を落としかねない。テレワーク時の具体的な不安として、「相手の気持ちがわかりにくい」が37.4%、「仕事をさぼっていると思われないか不安」が28.4%と高くなっていた。

そもそも、これまでの雇用習慣では、「1人で業務を進めること」に慣れていない従業員が多い。また、従業員の一体感が失われたことを嘆く声が多いことは、逆に言えば、それまでいかに疑似共同体的な組織であったかということの裏返しだ。企業としては、従来の相互依存性が失われたときに生じるデメリットに注意を払うべきだ。

すぐに「ジョブ型」には変えられない

3つ目の、「評価と育成」についていうと、まず、それまでのオフィスで求められてきた「優秀さ」と、完全テレワークの組織で求められる優秀さはベクトルが異なる。

テレワークでは、人あたりのよさやコミュニケーションの柔軟さよりも、「個」としての主体性や自律性、言語化能力などが求められる。また、ITリテラシーの格差が、そのままパフォーマンスの格差に直結しかねない。何回教えても遠隔会議がうまくつながらない人は、やはりどこの職場にも存在する。

同時に育成についても、日本の企業は仕事をしながら育てていくOJTに大きく偏っており、暗黙知が多い。現場で先輩の背中を見て学ぶことができにくくなることは痛手だ。企業としては、テレワークによって評価や育成面でも問題が生じていないか、注意深く見ておくべきだろう。

いま見た3つの特徴は、先程の職種ランキングで上位にきたホワイトカラーの職種にとくに強く当てはまる。テレワークでも業務が進められること自体はよいことではあるが、同時に組織のあり方としては要注意な職種だといえる。

だがしかし、こうした働き方全般への弊害を見て、日本の企業がただちに「ジョブ型へ転換」するのはあまりに短絡的だ。たしかにテレワークはアメリカを中心に浸透しているジョブ型の雇用との相性が良い。仕事の範囲が明確な従業員が多く、出すべき成果も報酬もその仕事と紐付いてクリアになっているからだ。

一方の日本企業の報酬体系は、格付けと同様に、仕事ではなく「人」を基準とした属人給のままであり続けている。従業員ごとのパフォーマンス格差があっても、人事評価は成果だけでは決まらず、「やる気」や「ポテンシャル」といった要素を含む総合評価で決まる。そのため優秀層は自分が思っているほどには給料に差がつかず、評価への不満を抱くことになる。

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