日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋

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たとえばある国内の鉄道会社では、そもそも採用の時点で既存の鉄道事業部門と電子マネーなど新規事業を担当する部門を分け、人事制度も既存事業とは分けている。

このように、新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである。

そして、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度上の工夫が必須である。

人事制度の独立が必須

このように、新規事業は新規事業として、独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用をすべきである。そのためには、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度の独立が必須である。

(5)新規事業=ゼロイチというバイアスの克服

これまで見てきたように、新規事業といっても、本当にゼロから事業を創出しスケールアップさせることは、確率が低く忍耐を伴い、見通しも不透明なものである。

1つの手法として、プログラマティックなM&Aを活用して新たな領域にどう入っていくかを検討することも重要な新規事業のアプローチである。
特に、対象とする事業領域の人材や組織をそのまま手に入れることが可能であるため、上記で述べたような陥りがちな罠はM&Aという手法を取ることによってある程度回避できる。

ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。

そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる。

野崎 大輔 マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー

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のざき だいすけ / Daisuke Nozaki

戦略・コーポレートファイナンスグループの日本におけるリーダー。製造業クライアントを中心に、全社ターンアラウンドの支援、成長戦略の立案、新規事業の立ち上げ、M&A・パートナーシップ戦略、事業買収プロセスおよび買収後統合(PMI)、リーダーシップ育成プログラムの運営など、幅広い業務に従事。ゴールドマンサックス証券株式会社にてベンチャー・キャピタル業務、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)にてプライベートエクイティ業務に従事、投資先企業のインテリジェンス(現パーソルホールディングス子会社)にて全社改革の支援を担当したのち、マッキンゼー入社。東京大学大学院修了。

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田口 弘一郎 マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイトパートナー

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たぐち こういちろう / Koichiro Taguchi

戦略・コーポレートファイナンスグループの日本におけるコアメンバー。主に産業機械や自動車業界を担当。戦略策定からデューデリジェンスまで広範囲手掛ける。一時マッキンゼーを離れ、総合商社での資源投資業務や独立行政法人での企画分析業務に従事。東京大学大学院修了。

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