アメリカの現在の経済危機の中心的理由の1つが、グローバル化である。グローバル化を批判する人は、アメリカの中流階級の苦境をこのグローバル化のせいにする。トランプ大統領もこう主張している。アメリカは貿易交渉でほかの国にだまされている。アメリカに不利な協定を結んでいるから、アメリカの仕事が失われているのだ、と。このような批判は、産業の空洞化を経験した地域ではとくに、多大な共感を得ている。
確かに、アメリカの労働者は不利な状況に置かれている。未熟練労働者の賃金が減少した理由の一端は、グローバル化にある。だがそれだけではない。アメリカがこれまで、求めるものを手に入れてきたからでもある。問題は、アメリカがグローバル化にいかに対処してきたか、アメリカがこれまで何を求めてきたかにある。貿易協定は、先進国および発展途上国の労働者を犠牲にして企業利益を推進するだけのものだった。
政府は、グローバル化の被害を受けている人を救うために行うべきことを何もしてこなかった。グローバル化の恩恵を誰もが受けられるようにすることもできたのに、企業の利益欲があまりに強すぎた。勝者は敗者に利益を分配しようとはしなかった。むしろ企業は、発展途上国の労働者との競争により、アメリカの労働者の賃金が押し下げられることを喜んだ。その結果、企業利益はますます増加した。
保護主義では解決しない
こう言うと、トランプ大統領と私は反グローバル化で意見が一致しているように見えるかもしれないが、そうではない。私は基本的に、法の支配を重視している。国際貿易はルールに基づいて管理されるべきである。国内の経済に法の支配が必要なように(それがなければ社会は機能しない)、国際経済もルールに基づくシステムが必要だ 。トランプが不公平な貿易ルールや迷惑な移民を問題視し、アメリカの苦境をグローバル化のせいにするのは間違っている。
グローバル化(とくに貿易の自由化への対処の失敗)が、産業の空洞化、失業、格差の一因となったことは否定できない。しかし、だからと言ってトランプが行っているような保護主義政策をとっても、こうした問題は何一つ解決しない。それどころか、ルールに基づくグローバルシステムを無分別に解体しようとするその政策により、一部の問題はいっそう悪化するかもしれない。
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