悪化が進む経済格差
経済学者の中には、格差など話題にする価値さえないと考える人もいる。彼らの言い分はこうだ。経済学者の仕事は、経済のパイの規模を増やすことにある。それに成功すれば、誰もがその恩恵を受けられる。ケネディ大統領が述べたように、上げ潮はあらゆる船を押し上げる、と。私も、それが本当ならいいと思う。だが、実際にはそうならない。上げ潮は、あまりに急激に起こると、小さな船を粉々に砕いてしまう。
また、GDPが増えても、その一方で環境が悪化し、資源が枯渇しつつあるのであれば、これもやはり経済が成功しているとは言えない。過去に頼り、未来に投資しない、あるいは子どもたちに遺すべき環境を破壊するのは、現在の世代のために未来の世代を犠牲にしているのと同じである。
アメリカの経済における病弊の原因はさまざま考えられるが、根本的な原因は、国富を真に生み出すものについて国民が理解していなかった点にある。あまりに多くの国民が、利益はつねに善であるという考え方にとらわれていた。利益は、富を創造しなくても搾取を通じて増やせる。
だが、不動産の投機取引をしたり、ラスベガスやアトランティックシティでギャンブルをしたり、営利大学を運営して学生の財産を略奪したりすれば、ごく一部の人間の懐は潤うが、社会全体の持続的な福利の基盤はつくれない。アメリカは過去40年間、インフラにも、人間にも、テクノロジーにも投資してこなかった。投資率さえ低く、国民生産に追いついてもいない 。
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