世界の経済危機を救うには「共同行動」が必要だ

ノーベル賞学者スティグリッツの強い政府論

ノーベル経済学賞を受賞した経済学者であり、クリントン政権時代の大統領経済諮問委員会の委員長や、世界銀行のチーフエコノミストを務め、タイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれたこともあるスティグリッツ。現在はコロンビア大学で教鞭(べん)を執る傍ら、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストを務めている(撮影:尾形文繁)
グローバル化の弊害ともいわれるコロナ危機。中でもアメリカは感染者数・死亡者数が世界最大となり、事態は深刻さを増している。その背景には大都市の中心部に多く住む低所得者層がまともな医療を受けられないまま働かざるをえないという残酷な現実がある。
かつてより格差の解消に政府の役割の重要性を強く唱えてきたノーベル経済学賞受賞学者のジョセフ・E・スティグリッツは、最新刊『プログレッシブ キャピタリズム』の中で、さらに一歩踏み込み「グローバル化により相互依存が進んだ世界で市民がリスクから身を守るには、一国の政府の強い力と世界各国の共同行動が必要だ」と主張する。本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

悪化が進む経済格差

経済学者の中には、格差など話題にする価値さえないと考える人もいる。彼らの言い分はこうだ。経済学者の仕事は、経済のパイの規模を増やすことにある。それに成功すれば、誰もがその恩恵を受けられる。ケネディ大統領が述べたように、上げ潮はあらゆる船を押し上げる、と。私も、それが本当ならいいと思う。だが、実際にはそうならない。上げ潮は、あまりに急激に起こると、小さな船を粉々に砕いてしまう。

『スティグリッツ  PROGRESSIVE  CAPITALISM(プログレッシブ  キャピタリズム)』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら。電子版はこちら)。(スティグリッツ氏が出演するBS1スペシャル「欲望の資本主義2020スピンオフ スティグリッツ大いに語る」はNHKBS1にて、4月17日(金)午後9時より放送されます)

また、GDPが増えても、その一方で環境が悪化し、資源が枯渇しつつあるのであれば、これもやはり経済が成功しているとは言えない。過去に頼り、未来に投資しない、あるいは子どもたちに遺すべき環境を破壊するのは、現在の世代のために未来の世代を犠牲にしているのと同じである。

アメリカの経済における病弊の原因はさまざま考えられるが、根本的な原因は、国富を真に生み出すものについて国民が理解していなかった点にある。あまりに多くの国民が、利益はつねに善であるという考え方にとらわれていた。利益は、富を創造しなくても搾取を通じて増やせる。

だが、不動産の投機取引をしたり、ラスベガスやアトランティックシティでギャンブルをしたり、営利大学を運営して学生の財産を略奪したりすれば、ごく一部の人間の懐は潤うが、社会全体の持続的な福利の基盤はつくれない。アメリカは過去40年間、インフラにも、人間にも、テクノロジーにも投資してこなかった。投資率さえ低く、国民生産に追いついてもいない 。

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