世界の経済危機を救うには「共同行動」が必要だ ノーベル賞学者スティグリッツの強い政府論

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【都市型経済】工業化が進み、脱工業化時代に移行していくにつれ、都市化が進んでいる。都市集積には際立った利点があるが、適切な管理が難しくなる。密集地域では、1人の行動が他人に及ぼす影響も大きい。例えば、交通規則がなければ渋滞が発生し、無数の事故が起きる。環境規制や衛生基準がなければ、都市は以前のような住みにくい場所になり、住民の寿命は短くなり、病気が蔓延する。騒音公害により不快な生活を強いられることもある。新興市場の「無計画」な都市を見れば、建築規制のない都市がいかに耐えられないものになるかがわかる。

【地球の限界に制限された経済】アダム・スミスの時代には、地球環境が壊れやすいという意識がほとんどなかった。現在、地球の生物圏は限界に近づきつつある。これまでの経験から証明されているように、市場の力だけに頼っていては、都市に人が住めなくなってしまうおそれがある。ロンドンの黄色の濃霧やロサンゼルスのスモッグがいい例だ。市場の力だけではこうした都市の汚染を防げなかったため、政府の規制により汚染行為を抑制した結果、個人や企業のわずかなコストで、万人に莫大な利益がもたらされた。

【複雑化する経済】アダム・スミスが例示した農場やピン工場の経済は、グローバル化・金融化が進んだ脱工業化時代のイノベーション経済とはまったく違う。かつては、景気変動をもたらすのは主に天候だった。

それから200年の間に、莫大な社会的コストを伴う大規模な景気変動がいくつもあったが、例えば2008年の金融危機は、天災ではない。人間がつくり上げたシステムがもたらした人災である。それにより国民は破綻し、いまだにその経済的・政治的影響を引きずっている。システムが複雑になり、相互関係が深まり、市場の各参加者が利益を最後の1滴まで搾り取ろうとすると、経済はそれだけ脆弱になる。

リスク対処能力の低下の一因は、グローバル化そのもの

【流動的な経済】経済はつねに変化している。これまでに、農業中心の経済から製造業中心の経済へ、そしてさらにサービス業中心の経済へと移行するとともに、グローバル化・金融化が進んだ。これからは、地球の限界の範囲内で、複雑化・都市化する経済を管理できるようにならなければならない。急速に高齢化が進む中、所得や福利を各世代に分配するという新たな課題もある。

だが市場の力だけに頼っていては、こうした移行をうまく管理できない。その一因は、衰退する分野や地域の人々が、将来性のある分野に移動するための資金を持っていないことにある。市場に任せておけばどうなるかは、ミシガン州デトロイトや私の故郷であるインディアナ州ゲイリーの惨状を見ればわかる。困窮している一般市民や地域が変わりゆく経済に対応できるよう支援してきた国(スウェーデンなど)には、より力強い経済制度、変化を受け入れる政治制度がある。

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【海外の動向の影響を受けるグローバル化された経済】現在では世界の相互依存性が高まり、大半の市民の対処能力を超えるリスクにさらされる機会も多くなった。この相互依存状況やリスクに対処するには、グローバルな共同行動がこれまで以上に求められる。だが経済のグローバル化は、政治のグローバル化(経済のグローバル化を管理する制度の発展)を上回るペースで進んでいる。

この問題に対処する責任は、やはり各国政府にある。しかし、政府の責任が増す一方で、それに対処する政府の能力は低下している(保守派は、政府が対処すべきではないと主張している)。この対処能力の低下の一因は、グローバル化そのものにある。グローバル化により租税回避が可能になった。また、グローバル化された世界で競争力を高めるには、課税や政府支出を削減しなければならないと誤った主張をする人も現れた。

ジョセフ・E・スティグリッツ ノーベル経済学賞受賞経済学者

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Joseph Eugene Stiglitz

2001年ノーベル経済学賞および1979年ジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞。イェール大学、オックスフォード大学、プリンストン大学、スタンフォード大学を経て、現在はコロンビア大学教授。クリントン大統領の下で経済諮問委員会の委員長、1997~2000年に世界銀行でチーフエコノミスト兼副総裁、2008~2009年の世界金融危機直後、「経済的パフォーマンスと社会的進歩の測定」に関する国際委員会、および「国際通貨金融システムの改革」に関する国連の専門家委員会において議長を務めた。研究活動においては、非対称情報のもたらす影響を探求し、新しい経済学分野である情報の経済学の発展に貢献した。

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