「マスク着用」で意見衝突する欧米人の特殊事情 彼らの根強い「マスク嫌い」の根底にあるもの

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オーストリアに関しては2017年に公の場で顔を覆ってはならないという法律ができたため、ニカブはもとよりマスクの着用も原則禁止でしたが、前述どおり、皮肉にもコロナウイルスの蔓延により今年4月からはスーパーマーケットなどでのマスクの着用が法律で義務づけられており、「顔を覆ってはいけない」を覆すものとなっています。

このような流れを見てみると、「コロナ以前のヨーロッパ」ではマスクにしてもニカブにしても「顔を覆うことは、顔の表情が分からないため、よろしくないことである」というのが共通認識でした。

サングラスが失礼な日本、マスクが失礼なドイツ

日本では堅い場や接客の場面などにおいてサングラス姿はふさわしくないとされています。筆者が日本に来たばかりの頃、プールサイドにあるカフェでアルバイトをしたことがありますが、眩しくてサングラスをしていたら、「接客にサングラスはふさわしくない」と注意されてしまいました。

それ以外にもサングラスというとカジュアルなイメージがあるほか、不良や反社会的勢力のイメージもあります。サングラスをかける場合、欧米だと「眩しいから」という共通認識がありますが、日本だと「自分の目の表情を相手に読まれたくないからサングラスをしている」ととらえられたり、「やましいことがある人」「何かを隠している人」と見なされたりすることもあるようです。

日本では表情を作るときに「目」が大事とされます。歌舞伎にも「左目と右目が異なるところを向く『見得の目』」や「睨み」がありますし、日本人にとって表情とは「目」といっても過言ではありません。そのためサングラスをかけ相手に自分の目の表情がわからないようにすることは失礼だというコンセンサスがあるのだと思います。

さらに日本は「場の空気を読むこと」がコミュニケーションをとる際に重要だとされるハイコンテクスト文化ですから、その際にも「相手の目」がモノをいうわけです。

一方、ドイツやイギリス、アメリカなどのローコンテクスト文化圏では、以心伝心でモノが伝わることはなく、コミュニケーションにおいては「会話」が重要視されます。その際に大事なのは「口」です。話をする際、相手の言っていることを聞き取ることが重要ですし、自分が話していることが相手に正確に伝わることも大事です。

そういったなかで、「マスク越しにモゴモゴと話すのは失礼」という見方がされてきたわけです。口が覆われていると、その人が笑っているのか怒っているのかがわからない、そもそも陰気で外向的ではない、という考え方が幅を利かせていたのでした。

ところが新型コロナウイルスの登場により、そんなことも言っていられなくなりました。少し前まではマスク着用に対する考え方には文化によってかなりの「違い」があったのに、新型コロナウイルスの登場によって、世界のいたるところでマスク着用がスタンダードとなり、世界中の人が同じ格好をするようになったのは、なんとも皮肉だといわざるをえません。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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