たまにマスクをしている人を見かけると、それはだいたい東洋人でした。ドイツに住む筆者の知人の日本人男性は、冬場は寒いためジョギングの際にマスクをして走っていたところ、人とすれ違うたびにギョッとした顔で振り向かれたといいます。それぐらいマスク姿は相手に強烈な印象を与えるものでした。
「拒否反応」の根底にあるもの
この期に及んで「マスク着用は果たして正しいのか」と議論している欧米人ですが、この現象、何かと似ているなと思い、よく考えてみると、フランスやドイツなどで昔から繰り広げられている「スカーフ論争」に非常に似ているのでした。
イスラム教徒の女性のなかには、欧米諸国に住んでいても宗教上の理由からスカーフを着用する女性がいます。ニカブという頭髪および、目以外の顔を全部覆うタイプのものもあれば、ヒジャブという頭髪と耳は覆うものの顔は覆わないタイプのスカーフもあります。ニカブについてはかねてよりヨーロッパでは男尊女卑の象徴だとされ、「欧米社会にはそぐわない」と非難されてきました。
でも頭髪と耳を覆うだけの(顔は隠さない)ヒジャブに関しても「宗教の自由があるのだから、スカーフをするかしないかの判断は本人に委ねられるべきだ」と比較的リベラルな考え方をするヨーロッパ人もいれば、「スカーフは欧米文化にそぐわないので禁止すべきだ」と考える人も多くいて、この論争は何十年も前から続いているのです。ドイツでは州により法律が違いますが、ベルリンやブレーメン、バイエルンなどでは学校の先生のスカーフ着用は禁じられています。
フランスは政教分離のもと、「スカーフ着用は宗教のサイン」だとして生徒が学校でスカーフをすることも2004年から禁止しています。
ただフランスやドイツなどの「スカーフ論争」で厄介なのは、当事者の女性の声が時に無視されているうえに、「スカーフを着用しているということはイスラム原理主義者なのではないか」という偏見を持つ人も少なくないことです。テロを警戒するあまり、「スカーフ」と「イスラム国によるテロ行為」を勝手に結びつけて考える人も少なくありません。
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