プロアスリートの場合、24時間365日、たとえ休日であっても、このストレスはかかり続ける。しびれる緊張感の中、場合によっては数万人の観客の前でスポットライトに照らされ、生きるか死ぬかの勝負を繰り返す。仮にマイナースポーツだったとしても、“プロ”を冠したその日から、競技は仕事となる。結果はそのまま生活に直結し、日々の練習も生活につながるプロセスとなる。それは、よくも悪くも相当なストレスを自らにかけている。
しかし、引退を決めたその日から、ストレスは丸ごとなくなる。なくなって初めて気づくが、このストレスに対抗して日々を生きていたため、急に毎日が物足りなくなる。そしてあんな刺激的な日々は、ほぼ確実に永遠に来ない。たとえ社会に出て営業職で大活躍することになろうとも、5万人の目の前で商談をすることは、私の知る限りではありえない。
何が言いたいかというと、これも表現を選ばずに言わせていただくが、プロアスリートは総じて中毒者だということだ。アドレナリンやドーパミンが分泌されてきた量も歴史も普通ではないうえに、引退して普通の生活を送ろうと思っても、脳はアドレナリンやドーパミンを求め続ける。本格的な薬物などの中毒者は、それをさまざまな代替物を使って補おうとする(ここではあえて書かない)が、引退後にそういう道に走ることは絶対にあってはならない。だからこそ、そうなることをあらかじめ“知っておく”ことが、重要な予防法となる。
ランニングであり余ったエネルギーを消化
私の場合は、やはりランニングをすることでそれらのエネルギーを消化した(ランニングは誰にも迷惑をかけないうえ、体重も減るのでおすすめ。しかし、プロマラソンランナーの場合、これは使えない)。
心臓を中心とした体の変化、脳を中心とした心の変化は、多くの元アスリートに話を聞いても、ほぼ確実にやってくるようだ。このことを知らないままいざ直面したときに、体が生産したあり余るエネルギーと、刺激的な体験を求める脳をもてあまし、危険な道に行きかねない。知っておけば、「なるほど、このことか」と、ある程度コントロールできる(そして、ランニングに出かけよう)。
以上が、大切なことの4つである。最悪なケースを想定しておくと、自然とそこを避ける力学が働くため、これら4つの、すべて逆のパターンを行ったらどうなるかということをお伝えしておこう。
まず、クビになり引退を決意する。目の前の生活をなんとかするため、現役時代から知り合いだった社長に相談し、その会社に入れてもらう。最近までプロアスリートだったこと、体力があること、見た目が爽やかだということで、営業職に就く。
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