24歳でプロ野球をクビになった男が説く転身術 アスリートが優秀ビジネスマンになるために

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この“焦り”は、セカンドキャリアにおいて大きな敵となる。自分に何ができるか、世の中にどんな仕事があるかを知らないまま、自らのプライド、体裁を守るためだけに取り急ぎ決めてしまう。それは、本質的な人生の意思決定ではない。他人に、世の中にどう思われるかという、自分の意思ではない不自由な意思決定である。

では、どうすればこの敵と対峙できるか。答えは至極単純、お金である。私の場合、幸いなことにお金があった。契約金は両親に全額渡していたため、なかった。しかし、掛けていた小規模企業共済金、プロ野球の退団共済金が入り、車を売って、700万円のキャッシュがあった。

私のプロ野球時代の最後の年の給料が580万円(ちなみに、これがキャリア最高年俸)で、月に自由に使えるお金は約5万円だった。プロ野球選手は、自分の体を維持したり、2軍(イースタンリーグ)にいると交通費が月に10万円ほど必要だったりするので、意外とお金がかかる(もちろん、税金もかかる)。野球選手を辞めれば、食費や移動費、体を維持するお金は一気に不要となるので、700万円というキャッシュは、余裕で2年間生きていけるお金だった。

今の生活を2年間維持できるキャッシュは必要

つまり、私はセカンドキャリアに対する意思決定の猶予期間を2年間得たことになる。この2年は、今振り返っても本当に貴重な2年だった。だから、私は現役アスリートに必ず「今の生活を2年間維持できるキャッシュは、絶対に貯めておこう。それがあれば、セカンドキャリアは半分成功したようなもの」とアドバイスする。

3年目には2軍で月間MVPを受賞したことも(写真:筆者提供)

大切なことの4つのうち、1つ目はクビになったことを周囲にしっかりと伝えること。2つ目は、現役のうちに2年分の生活費を貯めておくこと。そして3つ目は、競技を諦めること。私が元アスリートの相談に乗るときは、「競技は、完全にやりきりましたか? もう、1ミリの未練も残ってませんか?」と、必ず最初に聞く(その後に、キャッシュ何カ月分あります?と聞く)。

未練や不完全燃焼は、その場では大して問題にならないが、6カ月後あたりから大問題になる。前述したように、未来からやってくる不安は、今の集中力を著しく低下させるが、過去からやってくる未練や後悔も、同じく今の集中力を著しく低下させる。言うまでもなく、社会に出ればルーキーだ。さまざまなことを覚え、できるようになり、結果を出せるように成長しなければならない。

自身がルーキーだった当時を思い出せば容易にわかると思うが、決して楽な道のりではない。相応のストレスがかかり、不条理を受け入れ、時に理不尽なこともあるだろう。しかも、やることなすことほとんどが初体験なため、ストレスのかかり方は尋常じゃない。そんなときに、「ホントはまだ競技を続けたかったのに、クビになったから仕方なく今ここにいる」とか、「なんで俺がこんなことを……」という考えが少しでも頭をよぎると、そこを起点に一気に集中力が失われる。

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