29歳でプロ野球去った男が10年修業で得た力

時給850円でケーキ作りの腕を磨き上げた

あの清原和博さんとの有名なエピソードも持つ元プロ野球選手の小林敦司さん(東洋経済オンライン編集部撮影)
「戦力外通告」――。プロ野球という華やかな世界に入った天才たちに訪れる、残酷な瞬間だ。厳しい現実をとまどいながらも受け入れ、第2の人生を歩く。
自身も横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)で活躍しながらも、戦力外宣告を受けてプロ野球界を去った高森勇旗氏が25人の元プロ野球選手のセカンドライフを追った著書、『俺たちの「戦力外通告」』から一部を加筆・修正して抜粋する。

元プロ野球選手が経営する「2-3Cafe」

東急東横線の代官山駅から歩いて2分。ブティックやカフェが立ち並ぶ、東京のおしゃれを集めたようなこの街で、小林敦司は「2-3Cafe」を経営している。元プロ野球選手とは思えないきゃしゃな体つきに加え、彫りの深い端整な顔立ちは、いかにも代官山のカフェ経営者然としたたたずまい。しかし、ひじから手首にかけて刻み込まれた筋肉が、プロで11年間戦ってきたことを物語る。

「毎日、生地からケーキ作ってるんで」。盛り上がった腕を見ながら、言葉少なに語る。それはまるで、自分がプロ野球選手であったことがひとごとのようである。

「プロ野球なんて、一度も意識したことなかったですよ」。拓大紅陵高校時代、いや、中学校時代ですら、エースピッチャーとして投げた経験はなかった。高校3年生最後の夏も、1回戦で一度投げただけの3番手。ちなみに、その大会で敗れた相手は、1学年下の小笠原道大を擁する暁星国際高校。

当然、プロ野球は縁遠い世界だと思っていたが、監督から、意外にもプロから声がかかっていることを告げられる。迎えたドラフト当日、広島東洋カープから5位で指名を受ける。事前に知っていた人物は、監督と部長、それから家族のみ。小林を取り巻くほぼすべての人間が、事態をのみ込めなかったことは、容易に想像できる(ちなみに、なぜプロに入れたのかはいまだに定かではないそうだ)。

1年目。春季キャンプが始まってすぐ、広島名物である猛練習の洗礼を受け、トイレに座ることすら困難なほど体は悲鳴をあげていた。なんとかプロの世界に食らいついていくも、2年目にひじを故障。秋に復帰すると、サイドスローに転向した。

「当時、球界を代表するピッチャーであった巨人の斎藤雅樹さんのマネをしてキャッチボールをしていたら、やたらスムーズに投げられた。これしかないと思った」

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