退院後、実家に戻った松永さんは、息子と自分のケアで精いっぱいだった。1週間が経ち、母親のことが気になったので様子を見に行くと、暗い部屋で明かりもつけず、1人で座っていた。
「ご飯食べた?」と声をかけると、「忘れた」と応える母親。「こりゃだめだ」と思った松永さんは、その日から食事の支度を再開した。
父親ががん、母親は呼吸不全に
2019年4月。息子が保育園に入園。この頃の母親は、手のこわばりや発汗、脈が速いなどの症状が出ていた。
そして5月、当時66歳の父親に前立腺がんが発覚。ステージ2で転移は見られず、8月に入院、手術して、無事退院した。
「もう絶対に倒れられない。風邪もひけない。事故も起こせない……。両親や息子の命が全部私にかかっていると思うと、プレッシャーがすごかったです」
ホッとしたのも束の間、母親のデイサービスから「脈が速く、酸素濃度が低い」と電話がある。松永さんは、「すぐに病院へ連れていきます」と言い、父親と迎えに行く。
救急病院に着き、手続きをしている最中に、母親は呼吸不全で意識がなくなる。すぐに気管挿管され、人工呼吸器につながれた。
「前頭側頭型とアルツハイマー型認知症は、呼吸不全と関係が深いらしく、萎縮する脳の部位によってさまざまな症状が出るそうです」
その約1カ月後、気管切開に切り替えられ、やがて誤嚥性肺炎を繰り返すように。経鼻経管栄養では栄養的に不足するため、胃ろうを勧められた。
「救急病院から今の病院に転院するときの条件が“胃ろう”だったので、選択の余地はありません。私は看取りに向かう段階で、胃ろうにして無理やり栄養を入れるとむくむし、食べる楽しみを奪うことになる――と思っていましたが、主治医の話を聞いて変わりました。胃ろうにすると苦しまずにしっかり栄養が摂れるし、胃ろうにしても二度と口から食べられないわけではなく、回復したら外すこともできるそうです」
結果、寝たきりにはなったが、以前より顔色がよくなった。
母親が入院する直前の松永さんの介護時間は、月431時間。夏場だったため熱中症が心配で、約1時間ごとに「水飲んだ?」「生きてる?」と声がけしていた。
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