「新人クン、ガッカリしてるかもしれないけれど……」
僕の会社員人生のスタートはまったくさんざんなものだった。「カルチャー系のドキュメンタリー企画を」などと考えて放送局に就職するも、現場研修での体育会系のノリについていけず、会話もかみ合わず、3カ月の研修期間が終わる頃には、すっかり自信を喪失してしまっていた。
自分はこの会社に合っていないと思い詰め、人事部長に「間違ってこの会社に入っちゃったなあ」と慰められる始末。研修期間の終了後、希望の部署を確認するために実施された面接でも「特にありません」と答えてしまった。
そんな僕が最初に配属されたのは、テレビ放送にかかわるデータを入力、管理するという実に地味な部署だ。当時は、心身の調子を崩して制作現場を外れた人がリハビリ的に配属されたりもしていた。配属初日の職場で見たのは、机いっぱいにアニメのフィギュアを並べた先輩が、「ぷしゅー、ぷしゅー」と言いながら両手に持った戦闘ロボットを戦わせている光景だ。「これはヤバいところに来てしまった……」と絶望的な気持ちになった。
Tさんというその先輩は、アメフト部出身、職場にもプロテインを常備して筋トレを欠かさない超マッチョ。僕とは正反対のキャラクターだ。しかし、机のフィギュアコレクションからうかがえるように、超オタク気質でもあった。体を鍛えているのも自分自身がロボットアニメのキャラクターのようになりたいから、という個性的な人物だったのだ。
このTさんから、僕の会社員人生は決定的な影響を受けることになる。彼は呆然としている僕を見るなりこう言った。
「新人クン、配属されてガッカリしてるかもしれないけれど、心配ないよ。ここはディズニーランドみたいなところだから」
僕はますます呆然とした。
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