埋もれてしまうよりは、ある種の「変わり者」に
僕は放送局に入りたいという気持ちを最初から強く持っていたわけではなかった。
子どもの頃から本が好きで、できれば出版社に入って編集者になりたかったのだが、就職氷河期で採用予定のない会社も多く、いずれも狭き門。とりあえずマスコミっぽいところを順番に受けていこうと考え、採用時期の早い放送各局にエントリーしてみた。
だが、軒並み書類選考の段階で落とされる。たとえば現代思想の用語を引用してみたり。頭でっかちの青臭い文化系学生気質丸出し、いま思えばとんでもなく「イタい」エントリーシートだったから当然だ。唯一、書類選考をクリアし、面接を重ねて内定を得られたのがTBSだった。
内定後、本当に放送局でやっていけるか不安に思い、出版社を受け直したこともあった。それでも最終的にTBSを選んだのは、「放送局に入ればきっと僕はマイナーな存在だろう。でも逆に、毛色の違いこそ生かせるかもしれない」と考えたからだ。
僕みたいなタイプがいくらでもいそうな出版社で埋もれてしまうより、ある種の「変わり者」として独自性を発揮することのほうに、存在意義があるのではないかと。
たとえば僕はゴルフをやらない。放送局にはゴルフをやる人が多いし、以前いた営業関連の部署では、特にそうだった。熱心な誘いを断るのは心苦しいし、一人だけやらないのはかなり居心地が悪い。
でも、僕はゴルフに費やす時間とおカネがあるならほかのことに使いたい。読みたい本も聴きたい音楽も見たい映画も山ほどあるのだ。それに、「ゴルフをしない」程度のハンデをほかの頑張りで取り返せないようでは「変わり者」の道など進めない。
ゴルフは人脈作りに役立つだろうし、心から楽しんでいる人も多いだろう。実際、僕が初めてディレクターとして制作に携わった番組のメインパーソナリティは大のゴルフ好きで、雑談の話題の7割がゴルフ。当初は会話に加わることもできず、コミュニケーションに苦労した。
しかし、注意深く話を聴くうちに、実はその方がたいへんな読書家であることがわかってきた。ゴルフは駄目でも僕も本なら大好きだ。分野によっては、誰よりも話がわかる。結果として、競争相手の多い7割の中で埋没することなく、逆に残りの3割の中で存在感を示すことができた。
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