幼児からの超英才教育「意外な落とし穴」の正体 成功者は早くから専門特化した人だけじゃない
人生がゴルフやチェスのようだというふりをすれば、安心はできる。メディアで語られるイノベーションや自己発見の成功ストーリーは、A地点からB地点までのシンプルな道筋のように聞こえる。例えば、何らかのインスピレーションを受けてトップアスリートへの道を歩んできた、といった単純明快な説明だ。しかし、そのストーリーも、時間をかけて深く掘り下げてみると、だんだん曖昧になっていく。
タイガー・ウッズ型の道筋には、寄り道や、幅や、実験はほとんど存在しない。タイガーの育て方が人気なのは、そのやり方がシンプルで、不確実性が低く、効率がいいからだ。それに、誰もがタイガーのように他人に先んじたい。これに対して、寄り道や実験を続ける道筋はシンプルなものではない。
前述のサイモントンのクリエイティビティーの研究によると、優れたクリエーターは、生み出す作品が多ければ多いほど失敗作が増えていき、同時に画期的な作品を生み出す可能性も高まる。トーマス・エジソンは1000件以上の特許を持っているが、大半は取るに足らないもので、却下されたアイデアはもっとあった。エジソンは数多くの失敗をしたが、大成功した発明には、電球、蓄音機、映写機の前身などがあり、どれも世界に衝撃を与えた。
周りより遅く始めても気にする必要はない
早期の専門特化を象徴する存在であるスポーツ選手や音楽家たちも、よく調べてみると、実は最初の頃に幅広い経験を積んでいて、あとから専門を決めるのが一般的だった。偉大な音楽家は驚くほど多様な道筋をたどっているが、能力を育てるうえで早期の超専門特化は必要ではなく、即興演奏をする音楽ではむしろそれは稀だった。
20世紀で最も優れたピアニストの1人と言われているスヴャトスラフ・リヒテルが、初めて正式なレッスンを受けたのは22歳の時だった。スティーブ・ナッシュはカナダ人としてはまあまあ平均的な体格で、バスケットボールを始めたのは13歳のときだったが、NBAのMVP(最優秀選手賞)を2回獲得している。
私が今この原稿を書きながら演奏を聞いているプロのバイオリニストは、18歳のときに習い始めた。始める前には、「遅すぎるからやめておけ」と言われたという。彼女は今、大人の初心者の指導を大切にしている。つまり、シンプルな専門特化のストーリーは、こうした比較的親切な領域でも、そんなにピッタリ当てはまるものではない。では、そろそろ一言でアドバイスをしよう。それは「後れを取ったと思わないこと」だ。
そして数多くの研究が示しているように、あちこちに寄り道をしながら考え、数多くの実験するほうが、特に不確実性の高い現代では力の源になる。
(次回に続く)
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