幼児からの超英才教育「意外な落とし穴」の正体 成功者は早くから専門特化した人だけじゃない

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ロビン・ホガース(ポンペウ・ファブラ大学名誉教授)が言うように、世界のほとんどは「火星人のテニス」だ。つまり、コートにラケットとボールを持った選手はいるが、共通のルールはない。そのルールを導き出すのはあなたであり、ルールは予告なしに変更される。

ゴルフのほかチェス、クラシック音楽の演奏も、明確なルールがあり、即座に行動の結果がわかり、正解が時間とともに変化しないので、究極的に専門特化した練習が有効だ。会計士や、ブリッジやポーカーのプレーヤーも、繰り返し経験を積むことで直感が正確になっていく。行動経済学者のダニエル・カーネマンは、これらの領域の「強固な統計的規則性」を指摘する。

しかし、ルールがわずかでも変更されると、エキスパートは強みを失ってしまう。研究では、ブリッジのルールを変更すると、ブリッジのエキスパートはそうでない人と比べて、新しいルールへの適応に苦労する。また、別の研究では、経験豊かな会計士が、控除額に新しい税法を適用するよう言われると、新人よりもうまくできなかった。

ライス大学教授で、組織行動学を研究するエリック・デーンは、この現象を「認知的定着」と呼ぶ。それを避ける方法としてデーンが提案するのは、「1万時間の練習」で推奨されることとは正反対だ。すなわち、1つの領域内で取り組む課題を大幅に多様なものにすること。デーンの共同研究者の言葉を借りると「片足を別の世界に置いておく」ことだ。

現代の成功者の条件は「多趣味」で「博学」

私たち全員が直面する課題は、専門特化がますます推奨され、要求される現代で、どうやって幅の広さや、多様な経験や、分野横断的な思考を維持していくか。世界の複雑さは増しており、世界がテクノロジーで相互につながって、さらに大きくなり、個人はごく小さな部分しか見えない状況になっている。

その中では、タイガー・ウッズのような早熟さや、明確な目的意識が求められる場面は確かにある。しかし、その一方で、もっと多くのロジャー・フェデラーも必要になる。幅広く始めて、成長する中でさまざまな経験をし、多様な視点を持つ「レンジ(幅)」のある人たちである。

その観点で、最高レベルのアカデミックな科学者を調べてみると、本職以外に本格的な趣味や副業を持っている確率がはるかに高い。さらに、ノーベル賞を受賞した人たちでは、アマチュアの俳優やダンサー、マジシャンなどのパフォーマーである確率が少なくとも22倍高い。

また、全国的に知られている科学者は、ほかの科学者と比較して、音楽や彫刻、絵画、版画、木工、機械工作、電子機器いじり、ガラス細工、詩作などをたしなんでいる確率がずっと高く、フィクションやノンフィクションを執筆している可能性もはるかに高い。ノーベル賞受賞者になると、さらにその確率は上がる。

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