水野学×山口周「AIには"世界観"は作れない」 デザイナーの仕事でもこう「二極化」する
ココ・シャネルの前と後
水野学(以下、水野):僕はよく、「デザインには前と後ろがある」と言っているんですよ。「後ろ」は、絵を描いたり、形をつくったり、いわゆるデザイナーの仕事だと思われている部分。「前」っていうのは、例えば料理でいうと、どんな料理をつくるかという構想段階のことです。この構想のうまい・下手こそが肝なんですよね。
山口周(以下、山口):デザインの前と後ということで言えば、シャネルスーツやシャネル・バッグは、ココ・シャネルのデザインの「後」です。
シャネルは1940年代に上流階級の女性向けの服をつくり始めたけれど、当時のオートクチュールはウエストを締めて胸を強調するという、着心地が悪く、見た目は綺麗で性的なドレス。高額だから、顧客はパトロンやブルジョアの旦那さんに買ってもらうわけです。窮屈なコルセットがついていたのは、ある意味、女性は愛玩物という象徴にも思えます。
ガブリエル・シャネルは孤児院で育って、酒場で歌ったり、一時は愛人なんかもしていたけれど、「男性に頼らない生き方をしたい」という強烈なプライドと野心を持っていた。女性がもっと自由になって、自分の服は自分で選ぶべきだという価値観こそ、水野さんがいうところの、シャネルのデザインの「前」なんです。
水野:シャネルは女性をコルセットから解放し、男性のものだったジャージやツイードを初めて婦人服で使い、女性の服に初めて黒を用いたことでも知られていますね。両手が自由になるショルダーバッグもシャネルの発明だそうですね。