水野学×山口周「AIには"世界観"は作れない」 デザイナーの仕事でもこう「二極化」する
山口:そう、今の女性のファッションの「当たり前」はシャネルの発明だから、もちろんデザインの「後」もすばらしい。でも、着心地がものすごくよくてエレガントに見える画期的なドレスやバッグは、「女性の新しい生き方」という「前」があるからこそ誕生したんです。
シャネルスーツもどきやシャネル・バッグもどきはたくさんコピー商品が出ているけれど、彼女の価値観や生き様、時代に対するアンチテーゼはコピーできないでしょうね。まさに20世紀の女性はこうあるべきだという構想だし、しかも頭で考えたんじゃなく、生身の喜怒哀楽も含めて打ち出した。だから革命が起きたと思います。
これはスティーブ・ジョブズも同じで、僕が印象的だなと思ったエピソードは、ジョブズがゼロックスのパロアルト研究所に行ったとき、みんなが最新技術を眺めて「へえ〜、すごいですね」とのんびり言っているなかに、1人だけ「これは革命だ!」と大興奮していたという話です。
彼はきっと、見えたんです。高校生がマッキントッシュを使ってプログラミングをしてすごいことをやっている絵がね。彼は目の前の新しいテクノロジーではなく、自分の中で生まれた未来の世界観に興奮していたと思います。
デザイナーの仕事はAIで代用が可能に!?
水野:多くのデザイナーは「AIの技術が発達してもデザイナーという職業はなくならない」と勘違いしていますが、僕は真っ先になくなっていく仕事だと思っています。
デザインは知識と知識の結合なので、今後はランサーズみたいなマッチングが増えていくでしょうし、そのあとは自動デザイン製造アプリが主流になっていくんじゃないでしょうか。
山口:あらかじめ好みのデザイナーなりデザインを登録しておくと、「このデザインがマッチしていますよ」みたいにお知らせしてもらえるようになる。そんな感じですか?
水野:そうです。最初は企業側が選ぶかもしれませんが、しばらくするとデザイン知識の豊富な、例えばクリエイティブ・ディレクターみたいな人が選ぶようになるかもしれない。最終的には、そうした人をバージョンアップした人工知能が最適なものを選ぶだけになる。
とくにシンプルなグラフィックデザインの分野は早いでしょうね。ロゴだけであれば、すでにAIがつくってくれるサービスが出ていますし。そんな未来がすぐ目の前まで来ていると思います。