自分の子盗聴「山村美紗」は母としても凄かった ミステリーの女王、知られざる母の一面

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「気にいった料亭をまるごと買い取って自宅にリノベ」「暗証番号を入力しないと突破できない扉を自宅のあちこちに設置」「娘の服に盗聴器を仕掛けて男の子とのキスを阻止」「誘拐に備えて幼い娘たちに暗号をレクチャー」「ミステリーのトリックに使えると家電を買いすぎて月の電気代が20万円」「電話の転送トリックで門限破りをする娘のウソを推理で見破る」等々、これまで披露されたバブリー&ミステリーなエピソードは枚挙にいとまがない。

だが、鉄板ネタで笑いを取る山村紅葉に、どこか苦労人という風情があるのが気になった。母の遺産とコネで何不自由なく暮らすお嬢様女優という、コミカルなキャラで登場しているはずなのに。

幼い弟に『早すぎた埋葬』を読みきかせ

山村美紗は、法律学者だった父が朝鮮総督府の京城法学専門学校の校長に任じられた関係で、終戦まで日本統治下の朝鮮・京城(現在のソウル)で過ごしている。

読書好きな父に国内外の童話や漫画をふんだんに買い与えられたが、日本の童話はストーリーが単純で、善悪がはっきりしていて、最後に教訓があるのがつまらないと感じ、もっぱら外国の童話を好んだ。

ところが家に来た友達が忘れていった『怪人二十面相』を読んで以来、江戸川乱歩の少年ものに病みつきになった。謎、どんでん返し、トリック、ぜんぶ最高。江戸川乱歩をすべて読むと、2階のすべての壁面に備え付けられた本棚にある父の蔵書から、谷崎潤一郎や吉川英治といった大人の本を次々に読破していった。

読むだけでなく、かわいがっていた弟に小説を要約して語り聞かせるのも得意だった。

しかし当時から怪奇趣味だった美紗のセレクトは、幼い弟には刺激が強かったらしい。エドガー・アラン・ポー『早すぎた埋葬』を聞かされた弟はその恐怖が生涯忘れられず、大学教授になってからも家族に死後3週間は埋葬しないでほしいと頼んでいたという。ポーの読み聞かせ、超危険。

小学校をトップクラスの成績で卒業した美紗は、女学校に進学後、敗戦を迎える。すぐに引き揚げればよかったのだが、まじめな父が現地人にしっかり引継ぎしようと考えたため、その間家族は道端に座って父の本や家財を売って食いつなぐはめになった。12月にようやく引継ぎが終わって帰国するころには、一家は全財産を失っていた。

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