「こんな私と、今日は面談してくださってありがとうございます」
面談ルームの中で、生田容子(47歳、仮名)はうつむきながらこう言うと、ハンカチで目頭を押さえた。
「どうしたの? ここにきたら何でも話していいのよ」
「はい、こんな私と……お話ししてもらってもいいですか? もう本当に、本当にどうしたらいいのかわからないんです。つらくて、苦しくて。でも、何か行動を起こさないと何も変わらないと思って、今日はここにきました」
言葉を発するたびに涙があふれ出した。「こんな私と」という言葉には、自信のなさがうかがえた。何がそんなに彼女を苦しめているのか。よほどつらい体験をしてきたのか。
話を聞いていくうちに、彼女を苦しめているのは、幼い頃から彼女を支配し続けている母の存在だとわかった。
母の支配から抜け出せない
以前、このコラムで、30代、40代になっても結婚できないのは、母から歪んだ愛情で育てられている娘が多いからという記事を書いた。(39歳女性の結婚話を次々にツブす「母からのNG」)
そのとき、「私の母もそうだった」「そんな母を断ち切って、私は結婚を決めた」という類のコメントをたくさんいただいた。
子どもを自分の分身だと思い、過度な干渉を愛情だと勘違いする母。親の言うことを聞いて生きていれば、間違いがない。母が敷いたレールから少しでも外れようとすると、「だから、あなたはダメなんだ」「あなたになんか、できっこない」と、娘の人格否定をするような言葉を投げつける母。夫婦間の問題や夫の不満のはけ口として、娘につらく当たる母。“毒母”という言葉も生まれ、近年では社会問題にもなっている。
容子は言った。
「小さなときから母に、『遊んでないで勉強しなさい』と、言われて育ってきました。『あなたは特別美人ではないのだから、勉強で秀でて、いい大学に入って、いいところに就職をする。それが幸せになれるいちばんの近道だ』って」
いつも厳しい母が、テストでいい点を取ったときだけは笑顔になった。褒められたくて必死で勉強した。
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