その後、就職。28歳のときに、2度目の恋をする。同じ課で4つ年上の石橋崇宏(32歳、仮名)だ。何度かご飯に誘われているうちに、「付き合ってもらえせんか?」と交際を申し込まれた。
「学生のときって、いろんなことを議論するじゃないですか。読んだ本とか、見た映画とか、生き方とか、考え方とか。社会に出るとそうした議論もだんだんしなくなるのだけれど、彼は議論好きで、学生時代に好きだった人に性格が似ていたんですね」
結婚をしたいとも思った相手だったが…
石橋とは、初めてキスをした。それからは、ますます彼に気持ちが入っていった。結婚をしたいとも思った。
「もちろん彼が好きだったからですけど、結婚したら大手を振って、家から出ていけるとも思ったんです。勇気を出して母親を断ち切るのは、今かもしれないって」
ところが、この恋は思わぬ形で終焉を迎える。
「彼と付き合うようになって半年くらいした頃に、他の課から女性の先輩が異動してきたんです。その先輩は、私と彼の仲を察したのか、『2人は付き合っているの?』と聞いてきたんです。『付き合っているというか、まあ、その……』と言葉をにごしていたんですけど、それから1カ月くらいしたら、彼の態度がだんだんそっけなくなっていって」
するとあるとき、彼から言われた。
「ごめん。〇〇さんと付き合うことになったから、別れてほしい」
気持ちが離れていっているのを薄々感じてはいたものの、それが先輩女性への乗り換えだと知り傷ついた。しかし、これも現実として受け止めるしかない。
一瞬体が固まった。心がえぐられた。でも、ここで泣いたら自分がみじめになると、必死で涙をこらえた。
「わざわざ呼び出されて、別れを告げられて。もう本当にこの世から消えてなくなりたかった」
しかし、このとき救いだったのが、この出来事の直後に働くフロアが異動になったことだ。
「課が変わったので、彼や先輩女性と顔を合わせることもなくなったし、ものすごく忙しい部署で、残業の日々。まるで強制労働者のようにひたすら働いていたので、ほかのことを考えなくても済んだ。失恋の傷も忙しさの中に紛れていきました」
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