またこの頃、母が長年続けていた仕事を辞めた。家に引きこもるようになると、容子への束縛や執着がさらに強くなっていったのだが、残業続きで帰宅が遅く、母と過ごす時間が少なくなったことにも救われた。
いつの間にか「恋愛不適合者」になっていた
そして、3回目の恋を40手前のときにする。この頃は、仕事の部署も変わり、自分の時間が持てるようになっていた頃だ。
「友人から2つ上の固い会社に勤めている男性(安藤修司、41歳、仮名)を紹介されたんです。何度か食事に誘われ、彼の家にも遊びに行くようになりました」
安藤とは、初めて男女の関係にもなった。
「正式にプロポーズされたわけではなかったけれど、『住んでいる家をリフォームするんだけど、キッチンはどうしたい?』と、私の意見を聞いてくれました。将来のことも真剣に考えてくれていたので、あるとき、母に紹介したんです。まじめな人だったし、私も40歳、さすがに結婚には反対しないだろうと思ったから」
安藤に会った母は、終始不機嫌だった。またその日を境に、デートで土日家をあけることが多くなると、母は出先に異常と思える数のメールを入れてくるようになった。
「今日は、何時頃帰ってくるの?」
「お母さん足が痛くて買い物に行けないから、夕食の用意を買って帰ってきてね」
「なんだか具合が悪くて布団から起きあがれないの。早く帰ってきて」
「朝からあなたのかわいがっているペットがまったく餌を食べないのよ。元気がなくて動かないし。死んでしまうかもしれない」
急いで帰宅すると、母の体調は悪いわけではなくケロッとしていた。ペットも元気だった。
「母が言うことを本気にするのもだんだんバカらしくなってきて、外出先にメールがきても無視をするようになったんです。それで遅くに帰宅すると、『いったい何をやっていたの? お母さんは何も食べていないのよ。餓死させる気?』と、ヒステリックに泣き叫び、湯飲みやらティッシュの箱やら、そのへんにあるものを壁や私にめがけて投げつける。家の中がメチャクチャになってしまうんです」
最初は安藤とのデートを優先していたのだが、家に帰って一悶着あるのを考えると、それが面倒で、母の機嫌をそこねないうちに帰ろうと思うようになった。
「夕方になると帰宅時間ばかり気にしている私を見て、彼もだんだん気持ちが冷めていったのだと思います。しかも、結婚したらあの母親とも付き合わないといけない。そう考えていくうちに、私と結婚することに気が進まなくなったのか距離を置くようになりました」
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